【年始企画】CRI・ミドルウェアの櫻井氏に聞く、技術のあれこれ

みなさんがゲームで遊ぶ際、タイトル起動時に「CRIWARE」と書かれた青い箱のようなロゴを目にした事はないだろうか? コンテンツを手掛けている方々にはお馴染みの、一般の方はあまりご存じではないミドルウェアの開発会社。それが今回お邪魔する「CRI・ミドルウェア」だ。

世界でのCRIWARE採用数は3,400件を優に超え、PS4・PS3、3DS、Xbox Oneなどのコンソールのみならず、アーケード、iPhone、Android、Unity、Unreal Engineと幅広いプラットフォームに展開するCRI・ミドルウェア。そんな同社の執行役員であり研究開発本部本部長でもある櫻井敦史氏に、2016年の市場動向・自社の立ち位置を振り返っていただきつつ、2017年の展望・取り組みなどをインタビューする。
 
■CRI・ミドルウェアの櫻井氏に聞く、技術のあれこれ
 

株式会社CRI・ミドルウェア
研究開発本部本部長
櫻井敦史 氏(写真右)

研究開発本部エンジニア
家室 証 氏(写真左)
 
――:2016年に出された製品の詳細について聞かせてください。

櫻井氏:CRIとしてVR向けに発表・提供しているのは、元々メインフィールドである動画ミドルウェアとサウンドミドルウェアの2つ。これをVRに対応し、動画は「CRI Sofdec2 for VR」、サウンドの方はVRの立体音響向けに「CRI ADX2」で展開しています。一年半ほど前からデモ展示を開始して、いくつかのコンテンツ、イベントで使っていただいています。

分かりやすいところですと、バンダイナムコエンターテインメントさんの「VR ZONE Project i Can」の『トレインマイスター』などで、動画やサウンドに使われています。PlayStationVRだと、『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』などです。

特に動画に関しては、今までイベント系が多いですね。2016年の2月にYahoo!のハッカソンで「VRバレンタイン」という展示があり、そこにSofdecを使っていただきました。「人気女性タレントと一緒に過ごすVR」みたいな設定で。ハッカソンは技術オリエンテッドなイベントだったので、ただ動画を流すだけではなく「滑らかできれいな4K・60fpsの動画を再生したい、とにかく臨場感を追究したい」とのご要望を受けて技術提供しました。実際には、女性タレントが近づいた時に風を起こすだとか香りを漂わせるといった、「見ているだけじゃない体験」も組み合わされていて、とても実験的で面白い試みでした。

夏のフジテレビ系のイベントでは、「好きな人がいること」のプロモーションで、当時発売前のPSVRを使用した「動画VRミニドラマ」に使っていただきました。一般の方にとってはPSVRでVR動画に触れる数少ない機会でしたね。

スマートフォン系だと、フジテレビのオリジナルVRアプリ「FODVR」やドコモの「dTV VR」の動画技術として使っていただいています。一年半前からやってきた事のいくつかがやっと表に出て、アウトプットとして実際に使っていただいてきているのかなと。

12月に発表した、実写VR動画制作のソリューションパッケージ「VRider plus Powered by CRIWARE」ではUEIソリューションズ(以下、UEIS)さんと提携。CRIは基本的に動画のミドルウェアを提供しているだけなので、例えばアプリケーションを企画したり撮影したりという部分はお手伝いできませんが、「こういう事をやりたい」と相談してくれたところに何かできないかと考えていたのです。

ご縁があって、企画、制作面はUEIS、技術面はCRIというタッグでVRコンテンツ制作をパッケージ化、普通ではできないようなSofdecならではの演出もやれるようになりますよ、と発表させていただきました。
 

――:元々実写系には強かったんですか?

櫻井氏:CRIとしては実写だからという事ではなく、ゲームで動画を再生してもらう時に「コマ落ちは許されません」という世界でどれだけ滑らかに再生できるか?という事をずっとゲーム向けにやってきました。VRで全天球というのが来た時に、4Kとか60fpsとか、いわゆる「普通にTVで遊んでいるだけでは求められないスペック」というものが急に出てきて、「じゃあどれだけ滑らかに動きますか」というところで今までチューニングしてきたものがOculus Riftでちゃんと動く、PSVRでちゃんと動くと調整していって、紹介したところがポイントではないでしょうか。

――:トランスコードの技術もお持ちだと思うんですが、VR動画を使う時に、容量を減らしたのに滑らかさ・画質を保っている仕組みが気になっています。

櫻井氏:2016年に発表した「CRI DietCoder」ですね。MP4などの汎用的なフォーマットを、そのフォーマットのまま、画質劣化なくデータサイズを1/2に圧縮する、という製品です。VR動画は4K・60fpsのような画質が求められますので、データサイズがかなり大きくなります。また、VR動画では画質劣化やカクツキはVR酔いの原因となってしまうこともあるので、きれいなままデータサイズ半分にできるというのはVR分野でも活躍できる技術だと思います。

CRIはH.264などがなくて動画圧縮が厳しかった時代からどれだけ小さくできるかとずっとやってきていて、その時のチューニングの技術をとことん突っ込んだのがDietCoderです。「動画データを小さくする」という意味でも「データ通信料などを節約する」意味でも、今後VRで活用されていく技術になるのかなあと思いますね。
 

――:2016年に気になったタイトルやトピックについて、特に御社がご協力された中で、気になったものがあれば聞かせてください。

櫻井氏:特定のタイトルと言うよりは、CRIはゲーム系でずっとやってきた会社なので、まずPSVRのローンチが一番大きいですね!早く出て欲しいと思っていましたし、それがついに出てくれたというのが一番大きい。ローンチタイトルの『アイドルマスターシンデレラガールズ ビューイングレボリューション』や、「JOYSOUND.TV」のVR対応アップデートでCRIWAREが採用されています。ちゃんとローンチタイミングで使っていただけるタイトルとして技術提供できたというのが嬉しい。そこまで準備してきた甲斐がありました。

――:2017年のVRの展望について、どう見ていますか。

櫻井氏:動きが早いので難しいですが、PSVRも出てOculus touchも出て、デバイス周りは一巡目が出揃った感じに思います。今後VRが広がっていくためにはデバイスもさらに変わっていくでしょう。家庭で爆発的に盛り上がるというよりはやはりアミューズメントでVR体験して……自分の勝手なイメージですが、昔アーケードゲームを家で遊べるのが凄く面白かった時代があって、VRに関してはもう一回それが来てもおかしくない。

現在のアミューズメント系VRは、ヘッドセットだけではできない体験が多くあるので、そう簡単には家庭用に導入できません。でもその事情は昔のゲームセンターと一緒だったりするので、ジョイポリスやVR ZONEに行ったら体験できるんだけど、それを家のPS4でも遊べるんだ! という流れがあると盛り上がりやすいのかなあという気はしています。「買ってみないと体験できない」のではなく、「あそこで体験できたあれを家でもう一回できるのか!」みたいな。

実際アミューズメント系にもみなさん力を入れてらっしゃるので、やがて家でも、と。「スマホでも」ってのはまだまだ大変だと思いますけど。スマホは手軽に観られるという意味でもVR動画系、全天球動画との相性がいいですね。

アミューズメントスポットの盛り上がりは個人的に非常に期待していますし、逆にアミューズメントが盛り上がれば盛り上がるだけ先の期待感が出てくるかなと思っています。かつてのゲームセンターのゲームを移植する方々の苦労が、違う形でVRに来てもおかしくないですし、だからこそ面白いのかなという気はしますね。コンテンツ作る側は大変だなあと思いますけど(笑)
 

――:CRI・ミドルウェアさんとしての2017年はどうですか?

櫻井氏:CRIの動画技術はただ単に動画を再生するだけではなくて、透明度の情報を入れる事で描画を重ねるαムービーの機能がありますので、これを入れると、例えば「全天球の動画なんだけど何らかのリアクションで手前にもう一枚ムービーを重ねる」事もできる。「観るだけじゃない動画コンテンツ」も作れる仕組みを活用していくと、もう一段違うVR動画を作ることができる。VR動画って「きれい・滑らか」が理想系に見えている感じもあるんですが、「いやいや、そうじゃないんですよ、動画でもっと違う事ができますよ!」と。そこをもっと知ってもらいたいと思っています。

また、2016年にAndroid向けに発表した触覚ミドルウェア「CRI HAPTIX」のVR版を研究開発しています。具体的には、PSVR、HTC Vive、Oculus Riftのコントローラーの振動演出に対応します。触覚の次の展開先としてVRは相性がいいでしょう、と。正式なリリースはもう少し先ですが、後ほどぜひ体験してみてください!

あとは、VRコンテンツ制作への思いというか、、ここのところ、「動画を撮った時にどうすればいいですか」「動画を撮影した時に音はどうすればいいですか」と聞かれる機会が増えています。一般的に動画系の作り方や撮影の仕方を含めて、「こんな機材でこう撮って、こんな風にしたらいい感じのVR動画の体験ができるんですよ」みたいな定番のやり方ができていないんです。

だからみなさん試行錯誤されていると思うんですが、まだCRIとしてもちゃんとした回答を準備できていません。そこを積極的に調べながら、ベストかどうかは分からないんですが、「こうやってやると、こういうものができるんです」という情報を整備していくのはCRIのようなミドルウェア会社の役目かな、と思います。
 

もちろんCRIの技術も使って欲しいんですけど、その前にVR動画、全天球動画みたいなものをもっと気軽に扱えるようにしたい。法人やプロがコンテンツとしてやりたいと思った時に、どこからやればいいんだという手がかりをCRIが整備したいと思っていますし、業界的にもノウハウが広まっていく最中であり、それを整備しないといけないのが2017年ではないかと考えています。

デバイス周りのインフラが揃ってきたので「コンテンツを作る側がいいものを作りやすい環境」を整備しなくては、と。最初にご紹介した、VRコンテンツ制作をパッケージ化したUEISとのVRiderは、そんな試みのひとつですね。

ニワトリ・タマゴ問題ですが、「コンテンツが増えないとなかなか広まらない」という側面と、「デバイスの台数がこれだからコンテンツを作っても……」という側面があります。マーケット的にどっちもどっちなんですけど、結局そこを地道に整備していかないといけない。

CRIとしてはサウンドと動画、作り方の部分でお手伝いして盛り上げていけるといいと思っていますし、ゲームだけではなくて、ノンゲーム動画の人達も、ハコスコだけじゃなくてPSVRでも体験できるようにちゃんと整備できたらいいなあというのが2017年のCRI。そこに振動みたいなものも入れていきたい、みたいな(笑)

――:熱い思いをありがとうございます!では、読者の方々にメッセージを!

櫻井氏:CRIはミドルウェア会社。最終的にアトラクションやコンテンツを体験するプレイヤーの方々には直接つながらない企業なので、ご存じない読者の方も多いと思います。CRIのような会社は、VR周りのゲームやVRアトラクションがもっと盛り上がっていくように、「縁の下」的に動いています。この機会にロゴだけでも覚えていただいて、アプリやゲームで当社のロゴを見かけたら、「CRIの技術が使われてるんだな」と思っていただけるとCRIメンバー一同とても喜びます(笑)

2017年はいっそう盛り上がるよう、VRに携わる開発者のみなさんのお手伝いをしていきたいと思っています!

――:ありがとうございました!


■触覚ミドルウェア「CRI HAPTIX」による「振動」体験
ではここで、先ほどの「CRI HAPTIX」をご紹介する。この「CRI HAPTIX」でキーワードとなるのは「音」と「振動」。視覚情報以外に体験として重要となる要素の2つでもあり、アトラクション型VRになくてはならないものだ。今回体験した技術デモはHTC Viveのコントローラーを用いたもので、それを剣に見立てて振り回す。

刃を合わせると「キンッ!」と小気味良い音が鳴り、対する相手に斬りかかるとちゃんと「ザシュゥ!」と斬撃の音が響くものであった。そして音に合わせて手に振動が伝わってきます。動画も記載するので、ぜひ観ていただきたい。
 

剣戟の音の他に、心臓の鼓動に合わせた振動などもあり、中でも「ボタンを押した時に動くドリルの感触」は本当にリアル。エアーではなく出力の強い電気ドリル系だ。ボタンを放すとモーターの音や振動も緩やかに減速して止まるというこだわりよう。さすがにあの手首を持っていかれる感はないが、コントローラーに重量さえあれば本物と見紛うばかりの体験だ。

HTC Viveデモの振動、音を再生して音の波形情報から振動制御用の振動を作ってライブラリ側で調整しているそう。VRでも効果音は鳴らすので、それに応じた振動をミドルウェアの機能で出してあげればゲーム開発の助けになる。これはVR市場において、大きなウェイトを占める可能性を秘めていると言えるだろう。

この「CRI HAPTIX」のみならず、普段我々が楽しむゲームや動画の「プラットフォームとコンテンツの間」「メーカーとユーザーの間」を分かりやすくするCRI・ミドルウェア。縁の下の力持ちであり、業界になくてはならない存在である同社の新技術には今後も大注目だ。
 
(取材・撮影・インタビュー:編集部 和田和也)
(取材・文・インタビュー:ライター  平工泰久)
株式会社CRI・ミドルウェア
http://www.cri-mw.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社CRI・ミドルウェア
設立
2001年8月
代表者
代表取締役会長 鈴木 正彦/代表取締役社長 押見 正雄
決算期
9月
直近業績
売上高28億4000万円、営業利益9700万円、経常利益1億3800万円、最終損益3億3900万円の赤字(2022年9月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3698
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