「任侠道」プロデューサー今泉氏に聞く・・・「任侠道」誕生秘話と今後の展開【gumi前編】

今回は、gumiのソーシャルゲーム「任侠道」が好調だ。「任侠道」は、登録会員数が100万人を突破し、「GREE」のゲームランキングで常に上位に入っている。また「世界観が必要ない」といわれるソーシャルゲーム業界にあっては、ストーリー性や演出を重視している点にも特徴がある。「任侠道」は、どういった経緯で作られたのか、企画意図は何だったのか、そして今後の展開をどう考えているのか。今回、両タイトルのプロデューサーである今泉潤氏にインタビューを行った。今回、インタビューを行なったのは、gumiにある和室会議室である。くつろげる空間であった。

  ■「任侠道」の企画は映像プロデュースの手法から

---: 「任侠道」は好調のようですね。

今泉氏: そうですね。順調です。「GREE」のランキングでも上位につけていますし、先日リリースしたように、登録会員数も100万人を突破しました。現在、「任侠道100万人突破キャンペーン」と題する記念キャンペーンをやっています。この記事が出ている頃には開催されているはずです。

---: すごいですね。おめでとうござます。「任侠道」を企画された際の経緯を教えていただけますか?

今泉氏: もともと、gumi社内では、2010年7月くらいから「ヤクザゲームをつくろう」という話はあがっていまして、企画の叩き台のようなものはできあがっていました。ただ、いろいろな事情から長らく放置されていました。社内会議の時、「お前、やれよ」といった感じで、私が担当することになったわけです。

 

---: 演出やストーリー性などだいぶ凝っているゲームですね。

今泉氏: そうですね。私は以前、映像プロデュース業務を行っていたことがあります。テレビドラマやWiiで視聴できるTV、舞台のプロデュースなどを手がけていました。そういうバックグラウンドがあるため、ソーシャルゲームだからといって「世界観のないゲーム」を作ることには抵抗がありました。個性のあるキャラクターを出したり、視覚的に凝った演出を施したりすることで、暇つぶしコンテンツといわれながらも、視覚的に楽しめるようにしたいと考えたのです。カット割りから関わり、Flashの表現についても寄りと奥行きをかなり意識して使いましたね。

---: ストーリーについてはいかがですか。

今泉氏: ドラマのプロデュースでも脚本を作っていましたから、そのノウハウを生かし、映像業界時代から付き合いのある作家さんとストーリーのフォーマット化に取り組みました。例えば、「あなたなんか嫌い!」→「好きかも!」→「あんたなしでは生きられない!」(笑)といった感じです。「フリ」「ウケ」「オチ」ですね。キャラクターの個性を変えたり、演出を変えたり、ヤクザものならではの要素を盛り込みました。基本的な仕組みは、同じなのですが、見せ方や演出の仕方が違うので、毎回違うストーリーに感じられるはずです。ストーリーをフォーマット化することで、誰でもスピード感をもって作れるようにしたのです。ソーシャルゲームは、コンテンツの消費速度が非常に早いですからね。

---: なるほど。ストーリー性を強くした目的は何だったんでしょうか。

今泉氏: 一般的なソーシャルゲームでは、アイテムを盗んだ・盗まれるといった、いわば負の感情をうまく連鎖させることが重要と言われてきました。「任侠道」では、もう一歩深いところにいこうと(笑)。女の子が可愛かったり、キャラクターの個性をもたせたり・・・そのためにはストーリーが必要でした。以前も今も「ソーシャルゲームに世界観は必要ない」といわれていましたが、話の要点をまとめることで短時間プレイでも十分読めるコンテンツにしたら、ユーザーさんから受け入れてもらえると考えました。感情的には、アイテムを盗まれるよりも、女の子を取られる方が悔しいみたいですね。  

 

■凝った演出は戦略的な取り組み?

---: これは独自性を高めるために戦略的にやられていたのですか? ソーシャルゲームだと他社のコンテンツの面白い部分を改良して取り入れることはよくありますが、Flashを使った凝ったコンテンツだと、ノウハウがないと取り入れるのは簡単ではないですよね。

今泉氏: いえいえ、そういうことは考えていませんでした。凝った演出やストーリー性は、あくまで「任侠道」をパッケージとして考えた時に必要な要素だから取り入れたのです。例えば、ドラマをプロデュースする場合、個々の面白い要素に着目して企画するのではなく、キャストや監督、脚本、HPやポスターのビジュアル、DVDパッケージまで必要な要素をパッケージとして考えます。「任侠道」でも同じような手法で考えました。

---: てっきり戦略的なものと思っていました。ドラマのプロデュース手法だったのですか。

今泉氏: ええ。パッケージものと考えたとき、基本要素である「ヤクザもの」のお約束だけは守っています。例えば、ゲーム中には色々な変なキャラが登場しますが、必ずスーツを着ている、といったことです。他のゲームでよく使うカード合成のような要素もありますが、合成ではなく、魂を入れる「入魂」にしたり。あるいは、女の子については入魂すると「バァーン!」と胸が大きくなるような(笑)。繰り返しますが、あくまで個々の要素の面白さではなく、ヤクザもののお約束とソーシャルゲームを照らし合わせて必要な要素をパッケージとして考えていったものなのです。深夜ドラマのようなノリのゲームですが、ここまで評価していただけるとは思いませんでした。

---: 開発期間はどのくらいだったのですか?

今泉氏: 7月から始まっていましたが、12月までは大きくは進展していませんでした。私が本格的に関わりはじめたのは12月半ばからです。ソースを全く書き換えて、ゲームも一新しました。リリースは2月末でしたから、開発期間は実質的には2ヵ月ちょっとですね。 ---: 関わったスタッフは? 今泉氏: ディレクターは1人、エンジニアも2人でしたね。おまけにエンジニアの1人は新人でした(笑)。他のスタッフは、プロジェクトに関わりながら、こちらにも参加してもらいました。少人数での開発となりまして、本当に大変でしたね。

---: それは大変ですね。スマホの対応はいかがでしたか。Flashが多いため、他のタイトルに比べて難易度は相当高そうと見ていたのですが。

今泉氏: そうですね。フィーチャフォン版では、Flashの使用量が多かったので、かなり大変でした。当初、処理の重さが問題だったのですが、この点の軽量化対応はほぼ完了しました。今後は、スマホへの単純な移植だけでなく、違った要素も入れていきたいと考えています。

---: 現状だとボタンを大きくするとか、UIの改修に力を入れる会社が多いようですが、御社は違うのですか。

今泉氏: それももちろんですが、そうですね。例えば、「慈愛」を注ぐときに、女の子をこすると、女の子が落ちるといった(笑)。いままではバットでボールを打ち返していたわけですけど、グリーさんに許されれば、もっとすごいことをしたいです。端末の性能が上がるわけですから、それに合わせてコンテツももっとリッチにできるはずです。UI関係に関しては、フィーチャフォンから作って、スマホに移植すればよかったのですが、いまはフィーチャフォンとスマホを同時に考える必要があります。今後はスマホからフィーチャフォンへの移植を念頭において考える必要もでてくるかもしれませんね。  

 

■アイテムを配るだけではつまらない

---: ところで先日の「アプリSTYLE」では、アイテムプレゼントだけでなく、特典イベントも実施されてました。こういった企画は本当に珍しいですよね。

今泉氏: ええ、そうですね。映画のプロモーションを見ると、「ポケモン」は非常に上手ですよね。前売り券を買って劇場にニンテンドーDSを持って行くとポケモンがもらえます。子供たちは、映画も見たい、ポケモンもほしいと前売り券を買うわけです。これまで所詮、バーチャルと言われていたものが、むしろ高い価値を持つようになっています。例えば、リアルな衣服よりも、アバターの衣服にお金をかける時代です。ソーシャルゲームのアイテム特典をつけてタイアップした雑誌や商品は、軒並み売り上げが伸びていると聞いています。リアルな商品よりも特典でつくアイテムに価値を見出す人が増えているように思います。面白い時代になりました。

---: なるほど。

今泉氏: で、そう考えたとき、単純に良いアイテムを配るだけでは面白くないな、と考えたのです。配るアイテムは、良いにこしたことはないですが、それでも皆がもらえるようだったら、制約がないと、それなりのものしかあげられません。雑誌を買ってシリアルコードを入力した人限定のイベントを思いついたのです。シリアルコードを入力してから1週間以内にイベントをクリアすると、かなりレアなアイテムが手に入るようにしました。私自身、ゲーム制作だけでなく、クロスメディアでのコンテンツのプロデュースをやりたいとも思っていましたので、ちょうど良い機会だと判断したのです。  

■今後の展開

---: 今後、こうしていきたいというお考えはありますか?

今泉氏: 最近、ソーシャルゲーム業界では、カードのバトルゲームが非常に強いですよね。それにIPを結びつけたり、独自要素を追加したりしています。コナミさんは「コレクションシリーズ」、gloopsさんは「大乱闘シリーズ」を出しておられますが、当社は「道」シリーズを打ち出していきたいですね。「道」を切り開いていくという意味でも、です。

---: 雑誌以外のタイアップなどは考えていますか?

今泉氏: ええ、もちろんです。ソーシャルゲームがかなりカジュアル化してきていますし、そのヒットタイトルとなると、IPとしての価値は格段に上がっています。テレビや映画などのエンタメとのタイアップも考えていきたいです。幸い、グリーさんから賞をいただいたことで色々なところからお話がきています。「任侠道」をIPとして、今後もこれに限らず、色々な媒体とのタイアップを展開していきたいですね。「任侠道」を原作として、映画やドラマをつくるのもその選択肢のひとつになるでしょう。  

---: 海外展開も?

今泉氏: それもやりたいところです。「任侠道」や「海賊道」のようなコンテンツはもしかすると受け入れられるかもしれません。例えば、「任侠道」での男女のやり取りなどは「ワビサービ!」・・・「ジャパニーズソウル」として(笑)。

---: 面白いですね。最後に成功要因はどこにあったと考えていますか?

今泉氏: この業界に入った当初は「ARPUってなに? DAU? なにそれ?」といった状況でした。未知の単語が出てくるたびに、いちいち検索して、「なるほど」と(笑)。私自身、「任侠道」を開発するにあたって、個別作業にはあまり入らず、プロデュースに徹したことが良かったのかもしれません。映像プロデュースと同じく、各工程は専門家にお願いしました。「任侠道」は、業界内では成功を収めているタイトルとして評価をいただいていますが、チームとして、各スタッフが役割を果たして頑張った結果であると考えています。   いかがだっただろうか? 現在、gumiでは全職種で募集中とのこと。次回は、國光社長に登場して頂く予定。お楽しみに。

株式会社gumi
http://gu3.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社gumi
設立
2007年6月
代表者
川本 寛之
決算期
4月
直近業績
売上高160億0900万円、営業利益4億4700万円、経常損益1900万円の赤字、最終利益4億4500万円(2023年4月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3903
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