新たな音楽プラットフォームを目指す「D4DJ」の鍵になるのは“エンタメを止めずに動き続ける覚悟”。D4DJ統括プロデューサー・中山雅弘氏インタビュー



新型コロナウイルスの影響下において、大きな制約を受けているライブエンターテイメント業界。その中でブシロードは、感染拡大防止のために真っ先にイベント参加・開催を自粛し、後にリアルライブ開催の可能性を探る時期には再開の先鞭をつけてきた。同社の看板タイトルのひとつに成長した「D4DJ」もまた、段階的にリアルライブを再開。現在は5月29日に開催される「D4DJ」史上最大の野外フェス「D4DJ D4 FES. -Be Happy- REMIX」に向けて走り出している。

そんな「D4DJ」の基幹となるのがスマートフォン向けリズムゲームアプリ「D4DJ Groovy Mix」だ。そして、同アプリが現在力を入れているのが、オリジナル曲、カバー曲に続く新たな軸である原曲実装。その名の通り、元楽曲のボーカルでそのままリズムゲームとして遊べる仕様であり、より幅広い楽しみ方ができる音楽ゲームへの一歩を踏み出したと言える。

リスクを取ってライブでの活動にこだわる意味や、音楽を楽しむ場としての「D4DJ」が現在目指しているものをD4DJ統括プロデューサー・中山雅弘氏(以下、中山)に聞いた。



──現地ライブの開催に制限がある時期が続いていますが、ようやく有観客ライブの継続開催に道筋がつきはじめている印象です。まずは「D4DJ」のコンテンツとしての最近の状況について聞かせてください。

中山:一年ほど前からコロナウィルスの流行によってライブイベントに制約ができました。「D4DJ」はライブを大きな軸とするコンテンツですから、なかなかやりたいことが思うようにできない時期でもありました。その中でも、オンラインライブを積極的に開催したり、感染対策をした上でのミュージックビデオ制作をしたりとIPとしての活動と発信を続けてきました。そのことがお客さんにも認知してもらえて、オンラインでの配信も有料無料問わず大変多くの方に観てもらえるようになったと感じています。現地会場でのライブに関しては、感染対策が必要な状況でのライブのマナーやルールがディグラー(ファン)の皆さんにしっかりと浸透しているのを感じますね。
 


──配信ライブやサウンドオンリーライブなどを実際にやってみて、配信ならではの面白さ、難しさなどの発見はありますか?

中山:「D4DJ」はオリジナルタイトルとしての立ち上げだったので、まずコンテンツと音楽を認知してもらうこと自体が大変でした。無料で視聴できる配信ライブは、「D4DJ」の名前は知っていて気にはなるけれどチケットを買うにはハードルが高い、という人にたくさん見ていただけたので、コンテンツ立ち上げのタイミングとしては良かったと思います。DJがいるライブがどんなもので、トラックメイカーとして素晴らしいDJも存在する、そういったことを知ってもらう契機になったのではと考えています。


──3月にはHappy Around!が「Happy Around! 2nd LIVE みんなにハピやね♪」、燐舞曲が「燐舞曲(RONDO) 1st LIVE [Re] incarnation ─甦生─ at Zepp Haneda」を成功させました。ユニット単位の有観客ライブの手応えはいかがですか?

中山:「D4DJ」の特色に、6ユニットそれぞれの色の違いがあると思います。音楽性や、キャラクターの関係性も6つとも違うんです。ユニットごとの単独ライブを見ていても、それぞれのユニットのカラーがライブにも反映されているなと感じますね。ハピアラの公演にゲストとしてMerm4idから日高さおり役の葉月ひまりさんや2月末に登場したばかりの新キャラクター・海原ミチル役の小岩井ことりさんが出演するなど、ユニットを超えたキャラクター同士の関係性がライブからも見えてくるのが面白いなと感じています。 
 
▲「SPACE SHOWER TV Plus PRESENTS 燐舞曲(RONDO)1st LIVE [Re] incarnation ─甦生─ at Zepp Haneda」より。


──Happy Around!は昼夜公演でしたが、燐舞曲は一回公演でした。このあたりはユニットのカラーも考慮しているのでしょうか。

中山:はい、燐舞曲はメッセージ性が強いユニットで、他のユニットとの色の違いを楽しんでもらっているところもあるかなと思ったので、あえて一回公演にしています。終わって楽しかっただけでなく、エモーショナルな何かが生まれればと思って作っているので、ライブを見て泣いた、という反応をたくさん頂いたのは嬉しかったですね。


──ライブにもユニットの色を反映した作品性のようなものがある。

中山:そうですね、もちろん全体としての「D4DJ」という作品が持つ作品性はあるんですが、その上で各ユニットのとがった要素は大事にしたいし、それが個性としてライブにもあらわれてきていると感じています。


──「Happy Around! 2nd LIVE みんなにハピやね♪」には新キャラクター・海原ミチル役の小岩井ことりさんもゲスト出演されていましたね。以前小岩井さんが「D4DJ」にラブコールをしていた記憶があるのですが、出演の経緯や裏話があれば伺えますか?

中山:実は小岩井さんには僕が前職で担当していた作品に出演してもらっていて、その時はクリエイティブが止まらない子だなという印象でした。その後の活躍は言うまでもありませんが、とても多芸で、クリエイティブの面でも魅力的な方です。ただ「D4DJ」は三次元展開もあるコンテンツなので、入っていただく方には技術や覚悟についてしっかり面談をさせて頂いています。好きです、やりたいですという方にも熱意やスキルの濃淡というものがあるので。小岩井さんに関してはスキル面での心配はなかったので、SNSでの小岩井さんの発信を見てこちらからお声がけさせて頂きました。


 
●幅広い音楽をレコメンドするプラットフォームを目指す

──「D4DJ Groovy Mix」では2月~3月の2か月に渡り“34日間連続楽曲実装”を行なっていました。精力的な楽曲実装の意図や戦略について聞かせてください。

中山:昨年秋のサービス開始以来、様々な作品や楽曲とのコラボを行なってきました。実装される楽曲にもオリジナル、カバー曲、年代についても幅広いものがあります。僕自身も他の人が作ったマルチメドレーやセットリストに、グルミクに実装して間もない曲がよく選ばれているのを見かけるんです。メドレーで聴いてみて、個人としてもいい曲だなと思って購入したりもします。実際ユーザーからもそういう反応がとても多いんです。広い意味でのDJって、たとえばラジオでおすすめの楽曲をレコメンドしていたりするじゃないですか。「D4DJ」としてはつなぎとかDJとしての技術の部分だけでなく、おすすめの楽曲を紹介していくという文化の部分もミッションとして非常に大事だと考えているんです。僕らの親世代が中古のレコードショップで知らない音楽を探したように、グルミクをきっかけに知らない音楽に触れてもらえたら嬉しいと思っています。
 


──なるほど、日々追加されていく楽曲がデイリーのレコメンド曲でもあるわけですね。

中山:そうですね。4月からはアニメ新番組のオープニングテーマとエンディングテーマの実装をスタートしました。今の時代は作品数も多いですから、その中でこういう番組があってこういう楽曲があるんですよということを、グルミクをきっかけに知ってもらえればと思っています。


──楽曲だけでなく作品にも興味を持ってもらうきっかけを作る。

中山:ゲーム内でも様々な作品とのコラボをしているんですが、たとえばホロライブさんとのコラボではVTuberとは一体どんな存在なのか、をLyrical Lilyのメンバーと一緒に知ることができるイベントシナリオを用意しました。コラボの際にも曲だけではなく、作品に興味を持ってもらったり、発見があるものを作っていったりしたなと考えています。


──VTuber、ホロライブといえば従来のアニメやゲームとはまた違った層に幅広くリーチするイメージがあります。実際にコラボしての手応えはどうでしたか?

中山:VTuberのファン層は若くて情報に対する感度が高い印象がありますね。ホロライブの宝鐘マリンさんがやっている響のラジオを聴かせて頂いたんですが、「サクラ大戦」の楽曲はほとんどソラで歌える濃い古参ファンのような方なんですよ(笑)。やはりそれぞれの趣味嗜好に特化した方がトークでも動きでもあれだけ魅せてくれるというのはとても魅力的に映ります。コラボの反響もとても大きく、「神曲来た!」という反応も頂きますね。たくさんの方に喜んで頂けて、良いコラボでした。


──3月下旬以降は「D4DJ」オリジナル楽曲、アニメ等のカバー曲に続く新たな主軸として、原曲実装にも特に力を入れている印象です。

中山:「D4DJ」オリジナル曲、カバー曲、そして原曲はそれぞれに楽しみ方が違うので、バランスを大切にしないといけないなと考えています。やはりコンテンツとしては2月にスタートしたメインストーリー新章の「D4 FES. STORY」を知って楽しんでもらいたいということもあるので、2月から3月にかけてはオリジナル曲とカバー曲を、3月から4月にかけては原曲をきっかけに作品に入ってもらえればという比重で考えています。
 


──“新しい音楽や作品を知って楽しんでもらう場を作る”“新しく入ってきた人にもコンテンツとしての「D4DJ」の物語を楽しんでもらう”という両輪があるわけですね。

中山:それって現実のDJの世界でも同じなんですよ。国内外のフェスでDJがいろんな曲をピックアップします。その人の盛り上げ方や楽しみ方が浸透すると、そのDJが出演するからイベントに行きたい、その人が選んだ音楽を聴きたいとなる。そうしてそのDJのファンが生まれて、やがてそのDJがトラックメイカーとして活躍するようになった時に、そのDJが作る音楽にも興味を持つようになる。DJのセレクトセンスに対する信頼が、彼が作るオリジナルの音楽への興味につながっていくような流れをコンテンツとして作っていきたいと思っています。


──ライブ配信サービス Mildom(ミルダム)でスタートした「グルミク公式生放送」にゲストとしてDJ Genkiさんが出演しましたが、ファンの反応もとても好意的に感じました。

中山:DJ Genkiさんの夜景をバックにしたDJプレイで、音楽自体ももちろんいいんですが、あの空間をコントロールしていたのはGenkiさんだと思うんですよ。曲だけでなく、人に興味がわいてくるというのがDJの面白さでもあると思います。だから「D4DJ」の様々な施策も、最終的にコンテンツとしての「D4DJ」に興味を持って好きになってもらいたいということは常にありますね。


──Mildomといえばゲーム実況を中心としたエンタメライブ動画配信プラットフォームだと思うんですが、「D4DJ」のゲーム実況に対するスタンスってどんな感じなんですか?

中山:ゲームプレイ動画についてのガイドラインも出しているんですが、基本的な考え方として縛りの強い音楽コンテンツってDJではないよな、とは考えています。各キャラクターの魅力やオリジナル曲の良さを広めたいなと思ってくださる方がいるなら、それができる環境を用意するのがこちら側の使命かなとも思っています。なので、ゲームをプレイしながらオリジナル曲を周知拡散してもらうのはとてもいいことだと考えています。


──「D4DJ Groovy Mix」には4月新番組の主題歌を含む最新曲から、ニコニコ動画黎明期のヒット曲、上の世代に刺さるアニメ楽曲まで幅広い楽曲が収録されています。楽曲の選定はどのように行なっているのでしょうか。

中山:アプリゲームだからといって、若い世代しか遊べないのはもったいないと思っているので、10代から40代以上まで幅広く遊んでもらいたいと思っています。自分の知らない世代の楽曲を知ってもらうきっかけになればとも思っていますし、実際に上の世代の優しい人がこういう曲なんだよと教えて、若い人が歴史を知るきっかけになるような交流も生まれています。我々も結構エゴサしてリサーチしていますし(笑)、掲示板などでこういう楽曲はどうだろうか、といった提案をしてくれる方も増えています。選曲にあたってはいろいろな世代、アニメに限らないいろいろなシーンからのチョイスを心がけています。社内でも世代性別問わず様々な世代のスタッフと相談しながら進めています。現場のスタッフから自発的に上がってきたアイデアを元に議論していることが多いと思います。
 


──広い意味で、音楽を集めてレコメンドする音楽プラットフォームとしての「D4DJ Groovy Mix」の強みはどういったところだと思いますか?

中山:リアルとデジタルの両面で楽しめるのがブシロードのメディアミックスプロジェクトの強みだと考えています。「D4DJ」の企画が生まれたきっかけって、木谷会長がF1のシンガポールグランプリで、ザ・チェインスモーカーズというアーティストのライブを見たことなんです。老若男女が一体になって楽しんでいる空間のエネルギーを見て、これだとなったらしいんですね。状況的にどうしてもオンラインになってしまうこともありますが、可能な限り一緒に音楽を楽しむことを諦めない姿勢そのものが「D4DJ」だと考えています。エンタメを止めないことが大事です。


──現実で一緒になって楽しむイベントとしては、5月29日に富士急ハイランド・コニファーフォレストで開催される「D4DJ D4 FES. -Be Happy- REMIX」がひとつの集大成になると思います。どういったイベントになるのでしょうか。

中山:情勢を考慮し、当日どういったレギュレーションでの開催になるかは現時点(3月下旬時点)では未確定ですが、これまでオンラインやデジタルで積み上げてきたものを、ひとつの場に集まって爆発させるようなフェスにできればと思っています。いろいろな意見を集めて感じたことですが、フェスって音楽を楽しむだけじゃなくて、その雰囲気の中でわーっと騒ぎたい人もいれば、後ろでドリンクを飲みながら楽しみたい人もいると思うんです。だからキッチンカーなども手配して、ただライブをやるだけではないフェス感を出せればなと考えています。自分自身も楽しみです。

──音楽だけでなくフェスという体験も一緒に提供するんですね。

中山:毎週金曜日に「#D4DJ_DJTIME」という番組を配信して、生身のキャストやDJによる配信と、リアルタイムモーションキャプチャーによるキャラクターDJの配信を行なっているんです。あれも週末の夜は「D4DJ」を通して音楽や体験を楽しんでもらおうというコンセプトでして、そういった面はこれからももっと充実させていきたいと考えています。その中でも一番大きな体験が富士急になるかと思いますので、ぜひみなさん来て楽しんでいただければと思います。


──最後にメッセージをお願いします。

中山:「D4DJ Groovy Mix」は単なる音ゲーではない、リズムゲームではないものにしようというコンセプトは最初からあったのですが、今の制約が多い状況下で目指すべきものが明確になったように感じています。“Dig Delight”、きらめきを探して、みんなでつながっていこうという「D4DJ」のコンセプトの中で、「D4DJ Groovy Mix」はリズムゲームに音楽が集まるプラットフォームを目指していきます。邁進していきますので、皆さん応援よろしくお願いします。

 
取材・文:中里キリ
 
 
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会社情報

会社名
株式会社ブシロード
設立
2007年5月
代表者
代表取締役社長 木谷 高明
決算期
6月
直近業績
売上高487億9900万円、営業利益33億8500万円、経常利益45億300万円、最終利益20億5000万円(2023年6月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
7803
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