【年始特集】アカツキ戸塚氏が語るIPづくり 「ゲームや単独展開にとらわれずトライ&エラー」 『TRIBE NINE』や『クマーバ』など期待IP続々

木村英彦 編集長
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2020年は、スマホゲーム業界にとって、「分水嶺」ともいえる1年だったといえるかもしれない。新型コロナの感染拡大でリモートワークを採用する会社が増え、ゲーム開発や運営、そして働き方を大きく変える一方、『原神』のようにゲームチャンジャーともいえる作品が登場し、業界に大きなインパクトを与えた。新型コロナによる巣ごもり消費は、スマホゲームの会社にとって一定の追い風となったが、高い競争力を持つに至った海外企業とどう戦っていくべきなのか、大きな課題も残した。

2021年の新年特集後半では、スマホゲーム会社のトップに競争優位性を確保する手段としての「IP」(知的財産権)の獲得・育成について聞いた。スマホゲーム会社の多くは、出版社や大手ゲーム会社のIPを借りてゲームをリリースしてきたが、2019年ころから自分たちでIPを育成・保有しようとする動きが出ている。2021年からこの動きが表面化するとみており、足元の取り組みについて語ってもらった。今回の記事では、株式会社アカツキ<3932>の戸塚 佑貴氏にインタビューを行った。

 

株式会社アカツキ
取締役 Head of Games
戸塚 佑貴(とつか・ゆうき)
上智大学卒業後、新卒入社したディー・エヌ・エーでソーシャルゲーム事業を経て、創業3年目のアカツキに入社。スマホゲーム市場黎明期よりプロデューサー・ディレクターとして複数のゲームプロジェクトの立ち上げを担当。2019年より取締役としてアカツキのゲーム事業全体の統括を担う。


 
――:まず御社では、どういったIPづくりへの取り組みを行っているのでしょうか。
 
現在、IP創出の取り組みを強化しており、幅広い経験を持ったプロデューサーが、いろいろな形でIPの仕込みを行っています。ゲームのように数億円かけてつくるものばかりではなく、トライアンドエラーをできるように何本も立ち上げています。芽が出てきたものはどんどん展開して、厳しいものはストップするといった考え方で挑戦しています。
 
これまでチャレンジしてきた中で、芽が出てきたものがあります。たとえば、キッズ向けのVTuber「クマーバ」があります。「おかあさんといっしょ」のような子ども向けのコンテンツを、YouTubeで短時間で見ていただくというコンセプトでやっています。YouTube再生数がVTuberカテゴリで年間1位を獲得するなど、新しいIPとして活躍しています。大手レーベルから協業のお声がけをいただいている他、すでにいくつかの企業とのコラボも実現しています。
 
キッズ向けIPというとすぐにゲームはイメージしづらいかもしれませんが、ゲームのIPという制約をかけず、さまざまな切り口でIP創出にチャレンジしています。


 


 
ゲーム化を見据えたIP創出の状況については、引き続き作り込みを続けています。IPビジネスは2年、3年ではなく、5年、10年と粘り強くやり続けることで大きなIPに育っていくものだと思っています。そういう観点では、まだ序盤の種を植えるところにあります。
 
原案を生み出すのと同タイミングで、「この作品は音楽からはじめるのに適している」「あの作品は小説からはじめることが発展のためにいいだろう」など、原案の魅力を最大限に引き出す方法を考えます。時代性やIPの特徴を踏まえた手法それぞれに適任者がいるはずなので、社内に限らず幅広い方達とのコラボレーションで作っていきたいと考えています。

 
 
――:必ずしも1社でやる必要はないですよね。展開にも限界がありますし。
 
そうですね。多面的に広げていかないと認知が取りにくい産業だと思います。昔はマンガ単体、小説単体、アニメ単体でもビジネスになりましたが、フリーミアムやサブスクリプションのビジネスの発展、グローバルへの日本コンテンツの配給網の整備など、業界全体の産業構造が変革期にあります。
 
原作によってはあるひとつのメディアでどうこうするというよりも、ゲームのマネタイズやマーチャンダイジングなども含めてトータルプロデュースを行う必要があるでしょう。コンテンツビジネスに携わる関係各社が連携し、上流から下流まで見据えながらトータルでファンを育てて、皆でwin-winになることが大事だと思っています。これは他社IPでも自社IPでも同じです。業界の皆さんと協力して時代を代表するIPをつくる、という考え方で今後もチャレンジしていきたいです。

 

 
 


――:そのほうが皆幸せになれますよね。
 
アニメの製作委員会などはそのはしりといえるものですが、IPビジネス全体として設計していく必要があるだろうと思っています。我々はゲームに強みを持っているという自覚はありますが、より広いユーザー層や海外展開で認知を得ようとするとアニメの力を借りる必要があります。
 
いまは小説やマンガ、TikTok、YouTubeをつかったコンテンツなど、いろいろなことを小さく仕掛けながら、ヒットするための勉強をしています。そして、協業先の方と一緒に経験を積みながら、その経験を着実に蓄積しているという段階です。

 
 
――:会社としてはゲームできちんと収益を稼ぎつつ、もっと大きな展開を目指してさまざまな種まきをしていると。
 
そうですね。ゲームを開発、運営するだけでは企業としてはいつか限界がくるかもしれません。IP軸でもゲーム軸でもチャレンジしていくことを、今後も積極的に続けていきたいですね。
  

――:企画原案からトータルで設計していく、となると、IPづくりの方法がだいぶ変わってきたんでしょうか。
 
そうですね。モバイルゲームビジネスは一定の資産がないと勝てない環境になっていますし、これは時代が証明していることですがモバイルゲーム発のオリジナルIPは発展しづらいです。上流から長期的な視野でトータルに設計しないと、発展しうるIPが生まれません。
 
IPのコアなファンが付いてくれれば、デバイスやテクノロジーが変わってもファンに新しい体験として楽しんでもらえます。そういったものを作っていくにはゲームだけではなく、幅広いメディアでユーザーとの接点を増やしていく必要があると思います。
 
その一方で、『OCTOPATH TRAVELER』のようにコンソールで作って一気に跳ね上げるといった、離れ業のようなこともあります。このような手法も検討し、研究開発の可能性は模索しています。さまざまな方向でIPを長期で成り立たせることにチャレンジしたいです。

 

 
 

 
――:アカツキ社ならではのIP開発の特徴といえるものはありますか
 
いくつかあります。ひとつめは、どんな協業先の方々とでも柔軟性を持って一緒にwin-winの関係性を作れるところだと思います。当社単独でIPやコンテンツが作れるとは思っていませんし、いろいろなタレントや可能性を巻き込んで時代のうねりを作りたいと思っています。
 
ふたつめは、トライアンドエラーのやり方はかなり根付いているということです。仮説を立てて実験して、うまく行かなない場合はきちんと修正できるというサイクルができていることです。機動力や思考の柔軟性など企業文化としても強いと思います。
 
新規IPとして、『TRIBE NINE(トライブナイン)』があります。小高和剛さんがトゥーキョーゲームスとして独立され、山口修平プロデューサーとお互いの強みを出し合い、計画を進めています。
 
山口は過去にさまざまな企業さんと提携しながら、ヒットをだしてきました。幅広い専門性を有する方々と協調してお互いの強みを出し合えるところがオリジナルIPを作る現場でもいきています。自分たちの殻にこもらず、世の中の人達と強調して力を合わせられるところはかなり強いと思います。


 


 
――:山口さんといえば、『八月のシンデレラナイン(ハチナイ)』も担当されておられますね。
 
『ハチナイ』については、本当に優秀なチーム、プロデューサー陣でやれていて、長期的な目線でプロダクト愛をもって取り組んでいるという実感があります。他社との比較は難しいですが、かなり頑張っているように思います。
 
『ハチナイ』のメンバーは、オリジナルIPをやっていることに誇りを持っていますし、これを5年、10年残していくことに気概を持っています。5年、10年と積み重ねる中では、時代や技術の変化に合わせる必要も出てくるかもしれません。そのような長期の視点で『ハチナイ』を育てていきたいと考えるチームでとても頼もしいです。


 

 

 
――:『ハチナイ』の展開では御社としても学んだところが大きかったのではないでしょうか。
 
大きかったですし、『ハチナイ』がなかったら、次の新作もオリジナルをやろうという気持ちにはなれなかったと思います。ファンとリレーションシップを構築してライブや物販を行うファンマーケティング、テレビCMを展開してちゃんとお客さんに来ていただくプロモーション、ライトノベルで新規のキャラを登場させた後にゲーム内に実装するなど、貴重な学習機会になりました。
 
『ハチナイ』自体の底上げに効いたものばかりですが、いずれも当社の人材やチームが経験できていることが大きいです。そして、この経験をノウハウ化、書面化して全員に共有して隣のチームに伝えたり、新作を作っているチームに影響を与えたり、メンバーが他の新作チームに異動して『ハチナイ』の経験が他のプロダクトに活かされていくということができています。利益以上に影響力のあるプロダクトだと強く感じています。
 

 
――:御社のIPづくりのフェーズは2021年はどういった状況になるとお考えですか。
 
IP部門では、これまで社内でヒットを出している人材を2017、18年ころからアサインしており、3年から5年かけて勝負するという考えで臨んできました。これまでさまざまな種まきやトライアンドエラーをしてきて、次のフェーズの攻め方が徐々に見えてきています。ここにきてようやくアクセルを踏める状態になってきたと思うので、アカツキはさらに力強くIPの創出に取り組んでいきたいと思っています。


――:ありがとうございました!

株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高243億3600万円、営業利益57億円、経常利益52億700万円、最終利益13億4200万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3932
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