【セミナー】EXマップでユーザーの欲求を”見える化”する! 消費者の体験を紐解けばヒット作は生み出せる

 
ディライトワークスは、5月29日に「DELiGHTWORKS Developers Conference(以下DDC)」の第6回を開催した。今回は、ディライトワークス第5制作部所属の東山朝日氏が登壇し、消費者のニーズを探るためのエクスペリエンスマップ(以下EXマップ)の作成法や、EXマップを使用してユーザーの欲求を探るプロセスについて解説していった。
 
「DDC」は、ゲーム業界で活動している人や、ゲーム業界を目指す人たちに向けて、ディライトワークスが開催している勉強会であり、今回で6回目の開催となる。当日は、東山氏が「お客様の「欲求」を探るワークショップ」と題したセッションを行なった。本稿では、その内容をお届けする。
 

▲第6回で登壇した東山朝日氏。コンシューマーからアーケードゲームまで、様々なプラットフォームでヒット作を手掛けてきた。
 
今回のセッションは、顧客層を設定し欲求を探る手法のひとつを紹介するものであるということを言明しつつ、講演中アイスブレイクも兼ねて来場者たちにいくつか質問を投げかけた。
 

 
最初に東山氏が聞いたのは、来場者たちのおおまかな年齢。今回の会場には性別問わず20代から40代が集まっていた。
 

▲東山氏が作成した世代一覧表。もちろん、こうだと決めつけているわけではなく、世間一般ではこういった分類がなされる場合もある、という目安としての表である。
 
次に東山氏が聞いたのは「好きなもの」と「人気がある理由がわからないもの」のふたつ。誰かが好きだと言ったものに対して、それが理解できないという人もいるし、人気がある理由がわからないと言ったものに対して、こういった理由があるからではないかといった反対意見もあがる。
 
そして、この趣味嗜好には、必ずしも年代や性別が関わっているわけではない。30代女性が好きだといったものを、20代の男性は理解できないといい、またとある30代男性は理解を示すなど、人の持つ様々な嗜好性が垣間見れた。
 

 
この結果を受けつつ、東山氏が会場に問いかけたのは、なぜ好きなものにこうした差が出るのかという疑問だ。前述の分類にある「新人類」にあたる世代でも、ひと括りに同一の結果にはならない。これは、ひとくちに言ってしまうと「育ってきた環境が違うから」という当たり前な話ではあるのだが、この当たり前を探ることがいかに難しいのかについて東山氏は触れていく。
 


▲例えば、子供のころにロボットアニメに夢中になる経験を得ると、自然とおもちゃが欲しくなる。大人になってそのおもちゃがリメイクされれば、その当時買えた人はもちろんのこと、買えなかった人がより強く興味をそそられることも予想できる。生産者側でも、こうした自分の体験を基に、新たな製品やサービスを作ることもあるのではないだろうか。
 
しかし、ここで問題となるのが、自分の好きなものが、他の人にとっても好きなものであるとは限らない。ましてや、自分と性別や年代が違う人の嗜好を、自分の主観だけで考えるのは非常にリスキーな行為である。
 
「ならば、どうやってターゲットの欲求を満たすサービスを提供できるのか?」。その問題に対するひとつの解答として東山氏が提案したのが、人の体験を時系列にあてはめ、俯瞰で把握できるようにしたエクスペリエンスマップの制作だ。
 


 
EXマップ制作の具体的な流れは、まず横軸を年代、縦軸を体験とする年表の枠組みを作る。ここに、各年代に起こった体験(当時リリースされた製品やサービス、発生した事件やブームなど)を書き込んだポストイットに貼り付けていく。こうして出来上がった年表の下に、「年齢ゲージ」を書き加える
 


 
こうして表が出来上がってきたら、「年齢ゲージ」と年表を俯瞰で眺めながら、どのような年齢層が、過去にどのような体験をしてきたのかを探り、その結果どのような欲求を持つに至っているのか、その「仮説」を立てていく。
 

 
実際に作ったEXマップの例として、東山氏が大学で行なったワークショップで、学生や教授たちが協力して作成したEXマップを紹介した。中には、その年を表す漢字一文字といったポストイットもあり、情報が非常に多岐にわたっているのがわかる。
 

▲EXマップの作成および仮説発見の際にも、できるだけ幅広い年代が参加するほうが効果的であると東山氏は主張している。


▲作成するにあたっての留意事項も、東山氏はまとめてくれている。
 
ここからは、EXマップを読み取る作業についての解説となる。EXマップは、消費者が欲求に至るまでの構造を読み取るものであるため、過去に起きたブームにはどのような過程があったのかを自分なりに考察しておくことが仮説発見の訓練になるようだ。
 

▲読み取った仮説の例は、4パターンに分類されていた。全てがこのパターンに当てはまるということではないだろうが、ひとつずつ簡単に解説していく。
 
まずは「価値観の刷り込み」。これは、労働が美徳とされた世代が定年後にただのんびりするだけにとどまらず、食の安全が脅かされるニュースが世間を賑わせたことを踏まえ、どうせなら自分の手で安全な野菜を作ってみたい、という欲求から小規模農園にマッチするミニ耕耘機がブームとなったというもの。「体験の輪廻」とはそのものずばり、かつて流行ったベーゴマを現代風の玩具にアレンジしたベイブレードがブームを起こし、少し間をあけてからさらに2次ブームを巻き起こしたというケース。
 
「価値観の転換」は、家族でケーキを食べる日というイメージだったクリスマスが、女性誌に掲載された情報の影響を受けて、恋人と豪勢に過ごす日というイメージへと変化していったケースを指している。最後に、幼少時代に純愛をテーマにした漫画やドラマに触れてきた女性が、大人になってから濃厚な純愛を描いた韓流ドラマに夢中になったというケース。これを「欲求の回帰」としている。
 

▲EXマップから読み取った情報を、製品開発に活用した実例として、東山氏は音楽ゲーム市場にフォーカスしたEXマップを挙げた。コナミの音楽ゲームが市場を席巻し、それとともにユーザーたちも音楽ゲームのコアユーザーとして成熟しきってしまった市場に対し、東山氏は新規参入層が親しみやすい楽曲を搭載し、直感的で簡単な操作で遊ぶことが可能でありながら、若年層の背伸び感に応えるクールなビジュアルを持った音楽ゲームをリリースした。そのタイトルは想定通りのターゲット層を獲得し、今もゲームセンターにて稼働している。


▲EXマップの更なる活用法として、複数のEXマップを併用することを東山氏は勧めている。あらゆる体験を見比べていくことで、新たな仮説の発見につながっていくからであると語った。

これで、予定していたセッションの内容は全て終了した。質疑応答の時間が設けられたので、そこであがった質問と、東山氏の回答を掲載していく。
 
――:面白い分析のとっかかりになるアドバイスがあれば教えてください。
 
東山:ひとまずは自分の体験をとっかかりとしてみてください。年代や性別の違うスタッフが仮説発見の場に入っていれば、自身の個人的な体験に対して、様々なカウンターが返ってくるので、そのなかで有力な仮説を発見していくとよいと思います。
 
――:EXマップを作るにあたり、どのようなきっかけで作ろうと思ったのかと、最初に作るときに発想の基にしたものはありますか?
 
東山:大元の理由は先ほども少し話したように、歳をとると自分の考えにこだわりすぎるあまり、市場や他人が持っている欲求を見通しづらくなる心配があったからです。客観性を持つための方法を考えたときに、他人の年表を把握してみるのがいいと思いました。自分自身、過去の経験が自分の趣味を形作っているという裏付けが見えたので、これは他人に成り代わって年表を書けば新たな発見ができると思い、年表という形で作りはじめました。
 
――:どこまでも情報が増えていく形式なので、どうしても情報が煩雑になると思いますが、制作期間を設けたり、不必要なポストイットをはがしたりするような作業は必要でしょうか?
 
東山:実務ではスプレッドシートを使い、並行作業することをお勧めします。煩雑になってきたとしても、エクセル上であればセルの表示非表示を切り替えることで、仮説発見に直接関係のない情報をカットできます。あるいは、音楽ゲームの次のタイトルを占うためのマップを作るなら、情報も音楽ゲーム+αに絞り、いたずらに情報が増えないようするといった工夫は必要になります。
 
――:複数人で作ることを推奨されていましたが、実際の業務で作る際には、何人ぐらいで制作するのがいいといった目安はありますか?
 
東山:会社によって事情が許さないことはあると思いますので、どうしても業務でやらざるを得ない場合はひとりでも可能です。複数でやるなら、1チーム6人ぐらい。若干の年齢差を設けることを推奨します。会社では、同じプロジェクトにおいて、決定権を持つ人と、新卒の人などを取り交ぜて入れておくと、さまざまな視点からの意見交換が期待できるので、そういった取り組みをお勧めしたいと思います。

以上の質疑応答をもって本セッションは終了した。
 
次回のDDCは、6月26日の20時から開催される。「モダンなゲーム開発環境とエンジニアが考える組織運営とは」と題し、技術部マネージャーの甲英明氏が登壇する予定だ。
 

 

●DDC vol.7 「モダンなゲーム開発環境とエンジニアが考える組織運営とは」
 

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(取材・文 ライター:宮居春馬)
ディライトワークス株式会社
https://delightworks.co.jp/

会社情報

会社名
ディライトワークス株式会社
設立
2014年1月
代表者
代表取締役 庄司 顕仁
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