【DeNA分析部特集Vol.2】DeNAが推進する攻めのユーザーリサーチ…起動時アンケートや生体反応など新たなチャレンジでユーザーリサーチの向上、発展を目指す

『逆転オセロニア』や『メギド72』を始めとしたスマートフォン向けアプリゲームを手掛けるディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>。それら人気タイトルはプロデューサーやディレクター、プランナーなど様々な職種によって支えられているが、分析の役割もゲームの開発・運営にとって重要な存在と言える。

そこで前回の「DeNA分析部特集」の第2弾として、DeNA分析部のユーザーリサーチの現場を紐解いていきます。お話を伺ったのは、DeNAの分析部に所属するユーザーリサーチグループの松本祥三氏と吉川正晃氏。

ユーザーリサーチグループがどのような活躍をしているのかを実際の事例を元に、取り組みの詳細と今後について語ってもらった。



ゲームサービス事業部
分析部ユーザーリサーチグループ
松本祥三 氏(写真左)

ゲームサービス事業部
分析部第一グループ 兼 ユーザーリサーチグループ
吉川正晃 氏(写真右)
 

■新規ゲームのアプローチに対する推進力を持ち、プロダクトとプレイヤーを繋ぐ


――:まず始めにお二人の経歴をお聞かせください。

松本祥三氏(以下、松本) 以前は調査会社でリサーチの仕事をしていました。ひとつの案件にもっと深く関わりたいと思うようになり、縁あって2016年8月にDeNAに転職しました。

吉川正晃氏(以下、吉川) 私は2012年に新卒入社し、今年で7年目です。最初の4年間はセキュリティ部の技術者として、全社のセキュリティを技術的な面からサポートする役割を担ってきました。

3年前にアナリストとして分析部に異動し、昨年アナリストグループのマネージャーになりました。その後、アナリストマネージャーと兼任という形でユーザーリサーチグループのマネージャーも務めています。


――:DeNAのユーザーリサーチグループはどのような業務内容で、どのような役割を担っているのでしょうか?

松本 プレイヤーの満足度など、ログでは見られないユーザーの想いや考えを可視化していくのがミッションになります。例えば『逆転オセロニア』や『メギド72』などのタイトルをプレイヤーが楽しめているか、どう思われているのかを調査し、プロダクトとプレイヤーの架け橋になる大きな役割を担っています。

――:実際に担当されているタイトルはあるんですか?

松本 リサーチメンバーは少人数ということもあり、1人で複数タイトルを見ているのが現状です。僕自身も自社で開発・運営しているゲームのリサーチの半分くらいは関わっています。

吉川 リサーチャーが主に活躍できる領域はアナリストと分けられている部分があり、アナリストはゲームのリリース後に、タイトルの課題をどのように改善していくかというところに重きを置いています。

一方でリサーチャーの場合は、新規タイトルがリリースされる前から関わって、理想のプレイヤー像を明らかにして、彼らにどうやってアプローチするかというところに取り組んでいます。

 

――:リリース前の段階からゲーム開発チームとガッツリ関わっているのでしょうか?

松本 そういったケースを、まさに増やそうとしている段階です。

吉川 今までは、どちらかというと私達は横断部署としてなるべく数多くの案件をこなすことにフォーカスしていました。しかしそれでは1タイトルにコミットする力がどうしても弱くなってしまうという課題があったので、2018年から新規タイトルに関してリサーチャーが推進力をもってリードしていこう、という意思決定を行いました。

松本 リリースした後にそのゲームを改善していくために、行動データの解析をやっているんですが、リリース前からリサーチャーが関われた方が分析として提供できる価値が最大化されると思うことがありました。リリース後に直せる範囲には限界があり、開発段階から調整していかなければならない課題感が自分の中にあったんです。

吉川 アナリストもリリース直前から関わるようにしていますが、開発期間が2~3年のタイトルですと、チームでの共通認識のズレがどうしても起こってしまうんです。

ゲームとしての目指すべき姿や、それを届けたいプレイヤー像などのビジョンが、30~40人規模の大きなチームになると、メンバー1人1人の思い描いているイメージや、それぞれのアウトプットに微妙なズレが生じて、最終的な結論があまり良いものではなくなってしまうのではないかと思っています。

そこに対して、リサーチャーが入ることで、メンバーそれぞれがプレイヤーをどんな風に思い描いているかをまとめてリードできるところが、開発チームにとって強みになり、また会社として求められている役割なので、時間を使って注力していく動きになっています。

 

松本 そのため、常に開発タイトルがどういう方向に進みたいと思っているのか、どういうフェーズなのかを把握していないと提案ができないので、開発サイドの週次定例などで彼らの進捗や目指していることなどをヒアリングしながら、「それならこういう調査をしましょう!」と提案することを心がけています。

吉川 単純にハブとしてのリサーチの提供だけではなく、その前段の、そもそもゲームを作るということに関してもリサーチグループのメンバーが介入して、作り方や彼らの思想に関して、もう少しイメージを具体化させられるようインプットをしています。


――:現状、リサーチグループの中で課題に感じていることはありますか?

松本 あまり大きくないチームなので、メンバーそれぞれの見ている方向を統一することはそこまで難しくはありません。ただ、やらなくてはいけないことや、やりたいことが多すぎて、人手が足りないことが課題です(笑)。

吉川 そうですね。今後は、リサーチグループのメンバーを増員し、なるべくタイトルに対する影響力や、メンバーの個の力を強くしていきたいです。そのために、よりシニアなメンバーも増やしていき、開発チームから求められる前に、私達からアプローチできるように組織力を強くしていきたいと考えています。

 
 

■起動時アンケート、生体反応などリサーチに対する新しいアイデアへの挑戦


――:これまでの事例として"起動時アンケート"を実施されているとのことですが、実装の目的や仕組みについて教えてください。

松本 起動時アンケートは『歌マクロス スマホDeカルチャー』(以下、『歌マクロス』)や『メギド72』で実装しました。アンケートやインタビュー、βテストなども一つのリサーチ手法ですが、いわゆる一般的な施策はこれまでも数多く実施してきました。

ただ、通常のアンケートでは、おもしろさの度合いははわかるものの、プレイヤーが結局このゲームに何を求めて、どこを楽しみたいからプレイを始めて、その機能をちゃんと楽しんでもらえているか、などという判断が必要になったときに分かりにくいと感じていました。

そのようなプレイヤーが何を求めてどういう行動をしたいのか、という意識と実態の部分が、今までバラバラな認識になっていたので、そこをきちんと繋げることを目的として起動時アンケートが実装されました。

 

吉川 起動時に実装した理由は、もともとアンケートやインタビューでプレイヤーと接触するポイントは作ってはいましたが、一度ゲームから離脱してしまった方に対してのアプローチ方法というものがほぼなくて、その方たちの声を聞きたくても聞けません。

その状態でゲーム内アンケートを実施しても、そもそもゲームにログインされていないので、回答してくれることは100%ありませんよね。

そう考えたとき、アプリのインストール時にどれくらい期待値を持って、どんな機能が欲しくてプレイするのか、という質問を最初に全員に聞いてしまうなら起動時がベストなタイミングだと考えました。プレイヤーから見ても、ダウンロード中にアンケートに時間を使うことにそこまでの不利益は感じないのかな、と思っています。


――:起動時アンケートの内容で意識したことは?

吉川 一般的な工夫としては、たとえばIPを扱ったタイトルであれば、その世界観を崩さないように、各キャラクターの個性を生かしたフレーズや言い回しにかなり注意しています。

松本 原作ではフランクな話し方をするキャラクターが、アンケートでいきなり敬語だと違和感がありますし、世界観としても不自然になってしまいます。IPの世界観を守りつつも、間違ったバイアスのある設問は良くありません。

また、気軽にゲームを遊ぶつもりなのに、たくさんの質問をされると答えるだけで疲れてしまうため、質問数をいかに少なくして、かつ傾向を分析するにはどうすれば良いかを改めて考えることも大切です。

 

――:では実装してみて成功した部分はありますか?

松本 価値観の部分がきちんと可視化できたことです。『歌マクロス』で実施したときに、「音ゲー」が好きというプレイヤー層の離脱が早かったことがわかりました。

調査してみると、最初は実装できる曲数に限りがあり、プレイヤーが曲をクリアするペースが早かったことが判明しました。だからと言って、「曲の数が離脱の原因だから明日10曲追加する」といったように、急激に開発進捗を早めることはできません。

そこで、一旦そのプレイヤー層に向けた広告を止めるという事例はありました。しっかり曲数が増えて、これなら大丈夫というタイミングから、またその層に向けて広告を打ちましょうと。

『メギド72』の事例では、RPGのどの要素が好きかというところで区分けしているんですが、例えばキャラクターが好きな方は、そのキャラが欲しくて、ガチャを引いたり育成したりなどしてゲームに熱中していただいているのかなとイメージしていました。

この仮説をもとに実際に調査したところ、やはりキャラクター好きのプレイヤーのほうが、「〇〇で確実に好きなキャラが手に入る」「キャラクターの衣装がおまけでついてくる」という施策を好意的に受け入れてくださることが多い、ということが見えてきました。

このように、しっかりとプレイヤーの感情をイメージして出した仮説と、リサーチ結果を通してわかる実態をすり合わせることが、現在の取り込みの中ででき始めているのかなと考えています。


――:今後、起動時アンケートをより良くするために何か考えていますか?

松本 主に2点考えています。1つは最初のイメージができていないと、後工程でがんばっても良い方向に進まないので、開発スタート時からちゃんと関わることを大事にしています。

もう1つは、いま世の中にリリースされているもので、明らかに「アンケートです」といった表示方法でゲームに組み込まれていることを変えていくことです。『歌マクロス』ではリズムゲームをどのくらいプレイしているか、「マクロス」がどれくらい好きかという完全に質問形式になっています。

こうした質問形式のアンケートはタイトルによって相性の良し悪しがあります。例えばプレイヤー自身が物語の主人公になって進めていくタイプのゲームだと、アンケートチックなものは現実に引き戻されてしまう要素なのかなと危惧しています。

そう考えると、アンケートがゲームの邪魔をしてはいけないと思っています。『トリカゴ スクラップマーチ』という今後配信を予定している新規タイトルでは、日常で会話をしているようなイメージで、(画像と合わせるという観点で)キャラクターが「目標ってなんだ?」とか「こんなの見つけたけど、どれが欲しい?」などを聞いてきて、それに答えると実はその裏にはロジックがあってセグメントが分解されています。

そういった、ダウンロード中の暇つぶしコンテンツとしてキャラクターと会話していたら、いつの間にかプレイヤーのセグメントがこちらでわかるような工夫をしています。

 
※画面は開発中のものです。

――:その他、ユーザーリサーチとして新たにチャレンジしている取り組みなどはありますか?

松本 現在、研究しているのが「生体反応」です。おもしろいって何?という質問に対する回答は千差万別ですよね。

例えば、複数のゲーム企画が立ち上がったとして、そのすべてがリリースされるわけではなく、いくつかの企画が通ってプロトタイプが作られ、またその中から残ったものが最終的にリリースされるのが基本的な流れだと思います。

でも、最終的に「この企画はおもしろい!」と事業判断したとしても、それが絶対に正解とは言えないと思うんです。おもしろいというのは人によって違いますし、ある人がおもしろいと思っても、別の人はおもしろいと感じないかもしれない。

そんな時に、"おもしろさ"を言語化したようなデータやグラフがあれば、例えば「わかりやすさの数値が極端に低いから、わかりやすくすればこのゲームはウケるかも?」という仮説ができて、みんな納得できるし、意思決定の判断材料にもなりますよね。

それを虹彩や脳波、脈拍、表情などで解析しておもしろさを「生体反応」で可視化できるんじゃないかというアイデアがあって、研究を進めています。実現できたらすごくおもしろいし、サービスとしてもやれるんじゃないかなと思います。

吉川 自分たちが実現させたいことはまさにそういった分野です。実際、いま世の中にあふれている分析の手法だけで解決できる問題に留まらず、自分たちが欲しい情報をどれだけ正確に、かつ定量的に可視化できるかというところを目指してやっていきたいと考えています。

定性意見をより定量的に判断できるようなつなぎ込みを、ユーザーリサーチグループはもちろん、分析部全体としても取り組んでいきたいと考えています。無理難題かもしれませんが、新しいチャレンジに取り組まない限り、分析部としての発展が頭打ちになってしまうので、挑戦し続けていきたいです。

松本 開発者や事業判断者のおもしろい、つまらないという定性情報はすごく大事で貴重なのは明らかですが、一部の意見なのも事実です。

なので、会社として事業判断する場合、一部の人がおもしろいと言ったからGOする、ということはほとんどないと思います。そこで、会社として定量的に判断できるように、新しい分析の手法を実現させたいと思っています。

吉川 現場の声だけなら定性はすごく大事ですが、会社として意思決定するときにはどうしても数字化する必要があります。なので、よりデータを広く集められる仕組みを分析部が提供していくことも使命だと考えています。

 

――:DeNAのユーザーリサーチグループは、生体反応を活かすなど、新しい技術や取り組みにチャレンジできる環境になっているわけですね。

松本 そうですね。他にも、おもしろさの追求の派生にはなりますが、わかりやすさの分析についても取り組もうと考えています。

チュートリアルでどれだけゲームを理解することができるのか、開発側が描く「最初はゲームをこうやって進めてほしい」という狙いと、プレイヤー側の進め方のズレをどうやって改善できるかという点を含めて、今後はデザイン部分も分析してみたいです。

吉川 恐らく分析とデザイナーが会話するゲーム会社って、なかなか珍しいと思います。

松本 そういう環境でもあるのでデザインの分析だったり、今はまだアイデアにはありませんが、AI技術を活かしたサービスなど、将来的にユーザーリサーチをさらに発展させるためのチャレンジを続けていきたいです。

 

■DeNA分析部で求められるリサーチャー像


――:ユーザーリサーチグループの立場から見て、DeNAはどのような会社でしょうか?

松本 言いたいことが言えて、それをしっかり聞いてくれて、答えてくれる会社です。思いつきや、アイデアベースで話したことが本当に実現することもあります。そういう環境なので、密接なコミュニケーションを取ることは積極的にやっています。

案件をとにかく回したい!と思っているリサーチャーの方には向かないかもしれませんが、前職時代の私のように、「分析結果からの意思決定がしたい」「もっといろいろ挑戦したい」と思っている人には、すごく働きやすい環境です。


――:DeNAのユーザーリサーチグループは単なる事業内の調査部門ではない領域でも活躍されている印象ですが、自社のリサーチャーにはどういう人が向いていると考えますか?

松本 さすがに数字を見ると頭が痛くなってしまう人は向いていないですが、一定の数字を分析して、施策の良し悪しやどうすることが最適なのか考えることが好きな人であれば、リサーチであれビッグデータの解析であれ、どちらも手段でしかないので手法を覚えればできると思います。

吉川 僕も同じような意見ですが、加えて「自分が関わっているサービスがプレイヤーにどう思われるのだろう」といったことが考えられる想像力が豊かな人は、アナリストやリサーチャーの素養はあると思います。さらに、課題に思えることや違和感を感じることに対して、事業側の立場に立って必要な提案だったり、課題解決方法を考えることができる人は、かなり向いているのかなと感じます。

やはり想像して仮説を立てないと、どうしても課題解決やリサーチを実行する行動に結びつかないので。なぜプレイヤーが自分たちの想定した動きをしてくれないのか、もっと楽しんでもらうためには何をすればいいのか、といった疑問から自分の中の想像力をどんどんかきたてて、仮説を立てていくことが大切です。

そして、その仮説を証明するために、分析としてリサーチをどう使えば良いかを考えて、いろいろなメンバーを巻き込みながら進めていくという人が理想的なリサーチャー像ではないでしょうか。


松本 正直、スキルがなくても後から身に付ければいいですし、それよりもどこかに尖っていてほしいですね。生体反応について私にはまだまだわからない領域ですが、それなら生体反応に詳しい人を呼んで巻き込んでいけばいいと思っています。

吉川 ただし人を巻き込んで何かやるにしても、目的からは絶対にズレてはいけません。最終的な目的は何なのか立ち返り、事業を成功に導くためにできることはなんでもやる意欲が成功するための必要条件なのかな、と思います。

 

――:今後、ユーザーリサーチグループに入ってくるメンバーにはそういったところを求めていると。

吉川 ユーザーリサーチグループはまだまだメンバーも少ないですし、これから組織を大きくしていく立ち上げ期なので、組織をリードして推進することにモチベーションを感じられる方に来てほしいです。

あとは、なにかひとつ尖った部分を持っていて、主体的になんでもできるような方にも来て欲しいですね。ユーザーリサーチグループとして色々やりたいことはありつつ、まだまだ発展していく組織なので、これからもっとおもしろくなると思います。

松本 そうですね、いま研究している生体反応は最初は思い付きでちょっとしたミーティングからスタートしたプロジェクトなので、チャンスはたくさん転がっています。DeNAの分析はこれからもっとおもしろいことをやっていくので、期待してください。

 
 

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会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
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