【年始企画】WFS,Wright Flyer Live Entertainment代表の荒木氏に訊く…VTuber市場参入の経緯やWFSの社名変更の意図とは

スマートフォンゲームアプリ業界の最前線で働く方々に話を伺い、2018年の市場動向と2019年のトレンドを読み解く年始恒例企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2018-2019」。

今回は、グリー<3632>子会社のWFSおよびWright Flyer Live Entertainmentにて代表取締役を務める荒木英士氏に改めて2018年の動きを振り返りつつ、2019年の展開を語っていただいた。2018年は、ゲーム事業のほかバーチャルYouTuber(VTuber)市場へもプラットフォーマ―として参入した同社は、今後、VTuber市場の発展をどのように見据えているのか。海外展開や日本のエンタメコンテンツの動向と共に、国内ゲーム市場がどのように変化しているのかという見解についてもお話を伺ってきた。


 

■成熟化したスマホゲーム市場に求められるのは新たな体験


――:2018年のゲーム業界全体を振り返ってどのような印象を受けられましたか?

荒木英士氏(以下、荒木):モバイル市場が成熟化して利益率も鈍化している中、引き続き中韓勢は伸びました。代わりに、コンソールやPCプラットフォームが凄く盛り上がってきています。さらに、コンソールも従来の売り切りタイトルだけではなく、月額サービスやDLC(ダウンロードコンテンツ)、無料で遊べるF2P(フリートゥプレイ)など、ビジネスモデルが多様化してきました。

業界全体としては、モバイル市場が以前ほど活発ではないということもあり、コンソールやマルチプラットフォームに目を向ける会社が増えたのではないかと考えています。


――:モバイル市場に関しては、お話いただいた通り成熟化してきていることから新たなタイトルが定着し辛いという意見もよく聞かれます。

荒木:そうですね。これは数年前から感じておりますが、既にリリースされて人気を得ているタイトルに関しては、どの会社も凄く丁寧にファンとのコミュニティを作って、遊び続けていただけるような取り組みをしています。その中に新規タイトルが割り込んでくるというのは、より一層難しくなっているのではないでしょうか。

――:そうした状況を打破するためには、どういった取り組みが必要だと考えておられますか?

荒木:やはり、今までにない新しいものは常に求められていると思います。その新しさは、例えば『フォートナイト バトルロイヤル』のようにゲーム性で切り込んでいくタイトルもあれば、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』のようにアニメやリアルイベントとの連動など、総合的に売り出していくような方法もあります。また、モバイル市場においてまだ大ヒットしていない大型IPのゲーム化を狙うというのも手法のひとつです。いずれにせよ、何かの切り口における新しい体験を提示していく必要があると思っています。
 
 

■爆発的な盛り上がりを見せたVTuber市場への参入


――:ここからは2018年の御社の取り組みについてもお聞きしていきたいと思います。4月には、VTuberに特化したライブエンターテインメント事業を展開するWright Flyer Live Entertainmentも設立されましたが、こちらの経緯について教えてください(関連記事)。

荒木:元々弊社では2016年からVR事業を展開しており、その中でポストスマホのプラットフォームを見据えてユーザー体験やコンテンツの内容を模索していたところでした。そこに、2017年後期から「VRChat」やVTuberが注目を集めはじめ、数字としても伸びてきたことがひとつの要因です。

VTuberというのは、ゲームや映像、コミュニティ、芸能界など、様々なジャンルが入り混じったコンテンツとなっています。弊社で事業を展開しようと考えたのは、そうした新しいものこそがVR時代のコンテンツ・IPの在り方のひとつだと考えたのが最初のきっかけです。また、この市場で弊社が持つテクノロジーやクリエイティビティを活かした表現ができると思ったのもこの取り組みに乗り出した要素でした。

 

――:ここまでの取り組みに関して反響はいかがですか?

荒木:今年は夏頃からVTuber専用ライブ配信プラットフォーム『REALITY』のスタートやVTuberのプロデュース展開という動きができており、ここまでは着々と進行していると考えています。弊社の取り組みをきっかけにVTuberを知られた方もおられるでしょうし、一般ユーザーがスマホで手軽に配信を楽しめるVTuber専用ライブ配信アプリ『REALITY Avatar』を提供したことで、これまでにはできなかったことが実現できるようになりました。徐々に基盤やコミュニティが揃ってきたという状況です。
 
 

荒木:VTuberがいきなりヒットしたわけではないように、こうしてシステムやプラットフォームなどの環境が温まってくることで何かをきっかけにしてドンと伸びるタイプの市場だと考えておりますので、今は一歩ずつ確実に進めたいと思います。

――:例えば、『REALITY Avatar』に関しては今までに例がない市場ということもありますが、その点での難しさはありましたか?

荒木:ユーザー視点では、視聴者とのコミュニケーションやインタラクションの仕方など、どうすれば面白い配信になるのかという点を、みんなが試行錯誤しながら開拓しています。僕たちとしてもより配信者の方々の意見を取り入れたいと思っておりますので、今はグループインタビューなどで直接お話を伺っているところです。

――:ちなみに、その中にはどういった意見がありましたか?

荒木:視聴者の皆さんに優しい人が多く、すごく温かいコミュニティということもあり「すごく楽しい」とお褒めいただけることが多かったです。PCを使えなくても簡単に配信ができるという点や、メイクや部屋の片付けをしなくても配信が楽しめるのが嬉しいという意見もありました。自分なりのこだわりでアバターを作ったり、コラボ配信など視聴者参加型の配信を企画されている方も多く、より身近に感じていただけているのではないでしょうか。

――:確かに、もうひとつの現実を作り出せるというのはVRならではの強みですね。そして、8月には人気VTuber「ゲーム部プロジェクト」を支援していくという発表もありました(関連記事)。

荒木:ゲーム部プロジェクトの良いところは、所属するタレントを単体として扱うのではなく、それに併せて人間関係や舞台といった世界観がしっかりと構築されているということです。そのため、VTuberという個の人間ではなく、ひとつの作品世界に仕上がっています。この点は今後も強化して、YouTube動画以外への展開や、VTuberの広がりを作るためのサポートを行っていきたいと考えています。
 

――:まさに先ほどお話されていたようなアニメやアイドルなど、様々な側面を持った新しいコンテンツとなっているわけですね。

荒木:おっしゃる通りです。今は、ゲームを制作するとなると1タイトルに数年の制作期間が必要です。アニメも1クールを放映するために2~3年かけて準備と制作を行っています。つまり、制作に時間がかかっているにも関わらず、タイトルがリリースされるまではお客様と触れ合えるタッチポイントがない状態です。

そこを、VTuberであれば埋めることができます。ライブ配信や動画配信、リアルイベントなど、タッチポイントの多さやお客様との距離の近さという部分が、既存のメディアのチャネルに比べてVTuberは圧倒的に優れていると考えています。なので、自分たちが作品を持っているのであれば、作品との接点を増やしたり、より身近に感じていただくための施策も可能になると思います。


――:少し話は変わりますが、その後、御社としては10月にWright Flyer StudiosがWFSへと社名変更を行いました。こちらはどういった意図があったのでしょうか。

荒木:弊社では、昨年もお話した通りグローバルへも積極的に展開していくというのが2018年のひとつの目標でした(関連記事)。その中で、今までは他社に任せていた自社タイトルのパブリッシングを、10月ごろより自社で行うことになったのです。そのため、自社のパブリッシャーブランドとして全世界で使用できる商標にする必要があるというところで、商標取得に難しい点があったWright Flyer StudiosからWFSに社名変更したという経緯があります。

ちょうど10月に『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』を海外でリリースしたのですが、このときのパブリッシングはWFS名義になっています(関連記事)。
 

――:ちなみに、1年を通して御社としての海外展開への感触はいかがでしょうか?

荒木:相当良いと感じています。弊社で海外展開しているタイトルが占める海外ユーザーの比率や、売り上げの海外比率が非常に高まっていることからも、市場が拡大していることが分かります。

また昨今では、冒頭にもお話した通り、国内市場が成熟してきて競争が激化してきたこともあり、海外展開も視野に入れるのが自然な状況となっています。これは、コンソールゲーム市場が10年ほど前に直面したのと同じ課題で、それと同じことがモバイル市場でも起きているのかなと思います。

そのときと1点違うのは、ここ2~3年でNetflixやAmazonプライムといった動画配信プラットフォームが浸透したことにより、正規流通する日本のアニメIPが増えたことが追い風になっています。今まではアングラな手段でしか手に入らなかった日本アニメの供給が全世界に行き渡ったことで日本のアニメファンが増え、それにより日本のアニメIPを使ったゲームが受け入れられやすくなったのではないでしょうか。このところ日本のゲームが海外でも売れ始めたのは、そうした日本のアニメコンテンツと海外市場の広がりというところに強く影響されているからだと思います。

 

2019年はより多くの「地域」「プラットフォーム」「フォーマット」で展開


――:では、ここからは2019年の展望についてもお話を伺っていきたいと思います。

荒木:ひとつは、2018年に始めたことをさらに伸ばしていくということです。2019年は『アナザーエデン 時空を超える猫』の海外展開も控えておりますし、お話した海外パブリッシングについてもより力を入れていくことは変わりありません。

そして、マルチプラットフォームへの取り組みというところも進めています。モバイルだけでは市場成長にも限りがありますので、今はNintendo Switch版の『釣り★スタ』の制作に取り組んでいます。こうしたコンソールや、SteamのようなPCプラットフォームなど、様々なゲームプラットフォームがありますので、自分たちが作った作品を複数のプラットフォームや地域で展開していくことに尽力していきます。

最後に、これはゲームというよりエンターテインメントの総合的な取り組みになりますが、既存タイトル・新タイトル関わらずアニメやライブを開催するなど、ひとつの作品を複数のフォーマットで届けていくという取り組みも強化していきたいと思っています。最近では、『消滅都市』の展開などが良い例ですね(関連記事)。また、VTuber事業に関してもここに寄与すると考えています。

 

▲TVアニメ『消滅都市』キービジュアル。

――:2020年には5Gの時代が到来すると予期されていますが、これによりゲーム業界にどのような変化が起きる可能性があるでしょうか?

荒木:5Gになることにより多くの通信容量が使えるようになるのであれば、パケット容量問題など間違いなく業界にとっては後押しになると思います。ゲームだけでなく、動画やVTuberのコンテンツを含め、通信容量の多いコンテンツを使用している業界にとっては追い風になるのではないでしょうか。

――:よりゲームや動画も普及しやすい未来になるということですね。

荒木:純粋にユーザーがゲームを遊んだり、動画を見たりする時間が増えることは大きいと思います。

――:最後に、2019年の抱負を読者の方々にお願いします。

荒木:2019年は、自分たちの生み出した作品を、より広い地域でより多くのプラットフォームへ広めていきたいと考えています。2018年に始めたVTuber事業を含め、お客様とより多くの接点を作りながらコンテンツを育てていくために頑張ります。

――:本日はありがとうございました。

 
(取材・文 編集部:山岡広樹)
 


■『REALITY Avatar』
 

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株式会社WFS
https://www.wfs.games/

会社情報

会社名
株式会社WFS
設立
2014年2月
代表者
代表取締役社長 柳原 陽太
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会社情報

会社名
REALITY
代表者
代表取締役社長 荒木 英士
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