【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第五十四回「最新を知らずして…」


株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
 

■第54回「最新を知らずして…」




現在、わたしは、
 
・学生向け勉強会「駿馬」
→全国を回って月1開催(札幌、新潟、東京、名古屋、大阪、福岡で開催済)
 
・採用担当、講師向け勉強会「伯楽」
→まだ1回開催しただけですが…

 
を実施しております。
学生たちは、現在のレベル差こそあれ、熱心に学ぼうとしてくれていますし、夢の実現にむけて、就職活動に少しでも役立つことはないか?とどん欲に行動していると思います。
 
また、企業の採用担当の皆さんも、自社のため、業界のため、学生さんのために、採用活動を頑張っておられると思います。
 
そして、学校の先生方は、多くの学生の面倒を見ながら(担任業務とかですね)、授業をもち、そして、就職活動の指導をし、日本ゲーム大賞などのコンテストに向けての制作の指導にあたっておられると思います。
 
そう、三者三様に「行動」し、「頑張って」おられます。
ここに関しては、わたしは、まったく異論はありません。

 
●学生は、最新を知らない?
 
もちろん、学生の中には、夢に向かうための努力を軽んじている子もいるでしょう。

高校までの教育同様に、「授業料を払ってるんだから、何を与えてくれる?何を教えてくれる?」と思っている学生もいるかもしれません。確かに、大学であっても、専門学校であっても、教育機関であると同時に、お金=授業料をとって教えている以上は、サービス業の側面をもっているのもいなめません。

ただ、小学校、中学校という義務教育では既になく、さらにいえば義務教育後の高等教育もうけてきてから、大学や専門学校で学んでいるはずです(時折、高校と専門学校のWスクール・重複受講をしている学生もいます。なので一概にはいいきれませんが…ただ、その数は、非常に少ないと思います)

もちろん、一部モラトリアムのような状態で「やりたいことを探す」という側面もなきにしもあらずでしょう。大学は特にその傾向があると思います(美大や一部の資格や技術に向けた大学を除いて)わたしも、えらそうに語っていますが、ゲーム業界に行きたい!と思ったのは就職活動をし始めてからですからねw
 
とはいえ、専門学校にいっている学生や、ゲームクリエイターになることを夢見てますと口に出す学生であればやはり、そこに向けた勉強はしなくてはいけないわけです。
ゲームの専門学校に入る段階では、まだ、
 
ゲームが好き → ゲームで遊ぶのが好き
 
でしかないのかもしれず、
 
ゲームが好き → ゲームをつくるのが好き
 
ではないかもしれないわけです。

もちろん、今は、開発環境を簡単に整えることができるので、大学や専門学校に入る前から、それこそ、小中学生のころから、ゲームをつくろうと思ったらつくれないことはない時代になりました。まったくもってして、アナログゲームを自作したり、双六を改造するくらいからはじめていた人間としてはうらやましくてなりませんw

あ、でも、わたしは、NECのPC6001を親に買い与えられたのが小学校6年生の時でしたので、BASICマガジンの投稿プログラムを必死に打ち込んで遊んだりしていました…そして、打ち込んでいるわけですから、それを改造して、キャラを無敵にしたり、弾を連射できるようにしたり…ゲームのプログラムの勉強もこれくらい簡単に「結果が出る」ことから始めてみれば、もっとモチベーションを保ってゲーム開発の勉強を継続できるのかもしれません。
 
しかし、当時、学生で、読者として、ベーマガ誌上などで、ゼビウスの攻略記事などを見て、遠藤雅伸さんを見ていたのに、今は、お声がけいただき、PERACONの運営をお手伝いさせていただいたり、過去にはDeNA時代に主宰していた、座・芸夢イベントにも何度もご登壇いただきましたこと、恐れ多いと同時に、感慨深いですw
 
話それました、元に戻しますと、クリエイターになりたいのであれば、
 
・つくるための勉強をしなくてはいけない
・実際につくらないといけない
・でも、そのための基礎勉強ばかり最初にすると、気持ちが持たないかも…

 
などが言えると思います。

大学生に比して、専門学校生は、やはり、ゲームの制作経験が求められると思います。

個人制作もですが、特にチーム制作の経験は、専門学校に行く最大のメリットではないでしょうか?そして、学年をまたいだチームでの開発は、世の中にでてからの仕事の上での理不尽な指示や扱いの一端をも勉強することができると思いますw そんな理不尽さ無いに越したことないのですが、こればかりはゲームであろうが、なかろうが、ある事かと思いますので…
 
さて、上記はこれまでの連載の中でも語ってきたことです。今回は、そのうえ更に、「最新を学んでいるか?」がポイントになります。学生さんは、最新のゲームをプレイしていることは、おそらく間違いないと思います。ですが、いろんな学校の先生にお聞きすると、多くの学校で「最近の学生はゲームをやらない」とおっしゃることが多いです。これは、プレイしてないということはさしていません。
 
「多くのゲームデザインを知るために、バラエティに富んだゲームを遊ぶ必要があるのに…」
 
ということです。つまり、
 
総プレイ時間は長いのに
遊ばれているゲームの種類は少ない
遊んでいるゲームは、おそらく「好きなゲーム」だけ

 
なので、ゲームを考える際に、幅広いゲームデザインにふれていないために、引き出しが少ない学生が多い…と嘆かれるということですね。でも、これ現在の学生さん達をかばうことになりますが、世相と環境の問題かなとも思います。ここで、1つ造語というか定義ワードを提案しますw
 
くそゲー装着数(率)
 
というものです。「装着数(率)」とは何か?

すべてではないですが、例示するならば、ゲームのハード1台につき、いったい何本のゲームソフトを持っているか?というものを指す指標に使われていたと思います。

では、くそゲー装着数とは何をさすか?
 
我々40代が子供のころ、ユーザであったころ、ゲームはゲームセンターで遊ぶか?ファミコンやスーパーファミコンといったゲームハードにソフトを買ってきて遊ぶというものでした。そして、1本のソフトは、1000円、2000円で買うことはできず、5000円以上したと思います。中には10000円を超えるソフトもありました!

もちろん、一部のお金持ちの子供以外は、毎月1本ゲームを買うなんてとんでもないことでした。なので、誕生日、クリスマスといった記念日的な時を除くと、毎月の小遣いや、お手伝いをしてもらえる駄賃を貯めたり、お年玉を使って購入するしかありませんでした

そうなると、1本のソフトをプレイする=購入するのにも、全力投球でした!

いまのようにインターネットもありません。なので、情報はゲーム雑誌のみとなります。

穴があくほど見て、トモダチたちともいろいろ話して、貯めたなけなしのお金を握りしめ、ファミコンショップにいって、それでも、少し悩んでから、思い切ってレジにソフトを持っていき購入する…というようなことをしてました。そして、必死の想いで買ってきたゲームをプレイして、5分後には、
 
ああ、なんで、こんなゲームを買ってしまったんだ?俺は??
 
と自分を呪ったことも何度もありますw

でも、だからこそ、必死でプレイをしました。まだ、このゲームの良いところに気づいてないだけかも…とか、ゲームの後半に、感動するところがでてくるかもしれない…とか。とにかく買ってしまった以上は、元をとらねばならないわけですw

この何か月かの努力に報いる必要があるからですね…

ですので、その結果、買う前は面白そうと思っていたものの、買ってプレイしてみたら、好みから外れているわ、そもそも面白さを感じないわ…ということもありました。

ですが、必死にプレイしたのです! その結果、自身の好みのジャンルでないゲームもいくつかはプレイせざるをえなくなり、同時に、それを浅くではなくある程度までやりこむこともしていたと思います。
 
これが、「くそゲー装着数」です
 
つまり、くそゲーって普通ならすぐに辞めたいんです。だって、つまらないんだから(自分にとっては)でも、続けてプレイしてクリアまでたどり着く…そうしなくてはいけない理由があったからです。なので、逆に、この修行のような行為が、多くのゲームデザインに触れるきっかけとなり、自分たちで面白さの定義をしていたと思います。
 
それに比して、現在は、
 
・ネットで事前情報はたくあんある
・他のユーザのレビューやスコアも事前に手に入る
・ゲーム画面どころか動画すら事前にみることができる
・そもそも、スマホアプリなら、買わなくても無料!!!
など

 
という状況です。なので、学生をはじめとするユーザの皆さんは、コスト、リスク少なく新しいゲームにふれることができ、且つ、気に入らなかったらすぐに辞める=離脱することもできます。なので、非常に効率よく、自身の好みのタイプのゲームにたどり着けてしまうことが多いと思います。その結果、自分が好まない、これまでやってきてないようなゲームデザインのゲームをプレイする、しゃぶりつくすような経験から遠ざかってしまったのかもしれません。これが、
 
新しいゲームは確かにやっているけれど、好きなものしかプレイしない
網羅的に遊んでいない

 
これが今の学生の一部にみられる課題かな、と思います。自分で全部プレイできないまでも、サークルや友人の間で、毎月何本かゲームを遊んでみて相互レビューするとか?アマチュアならアマチュアなりに、学校という環境を最大限に活かすという手はあるのではないでしょうか?
(ちなみに、くそゲー装着数、は、エビデンスは特にない私の所感です)
 

●学校の先生は、企業は、最新を知らない?
 
これも一部でよく言われることです。
先生方は勉強不足である、と…

確かに、課題があるのもわかるという一面もあれば、そうは言っても、担任業務、講師業務、入学勧誘業務、などなど、非常に多忙であるのも事実かと思います。ですが、学生が先生方に「新しいゲームやってます?新しい講義方法考えてます?」と詰め寄る分には、わたしは止めようがありません。授業料を払ってもいますし、そういうことをいってくるのは、熱心な学生さんですからねw
 
ですが、企業側が一方的に、「先生たちは勉強不足だ!とディスるのはどうかと思います。たしかに、教え子を送り込む環境を知らないとはどういうことだ?と思います。でも、環境は各社異なると思います。求人の思惑も毎年修正されていっているでしょうし…

もちろん、ゲームの開発環境について知らないとかは問題があると思います。ゲームエンジンや3Dグラフィックツールを何をプロが使っているのか?知らないのはまずいでしょう。もちろん、人材育成は目先のことを教えるのが目的だけではないので、5年後見据えて、○○というツールをつかって制作してます!とかであれば、実際にそうなるかは別にして、そこに想いがあるならば悪いとはいえないでしょう。それが、何年も同じことをただただ形骸化されて、継続されているのでなければ、ですね。
 
なぜ、いまこれを教える必要があるのか?
そして、その必要性を学生1人1人が腹落ちするところまで話せるか?

 
が、大事なのかと思います。

なので、やはり、最新のゲームはプレイして、それらを見ての「これどう作ってるんだろう?」のような感情や疑問はもっていただければ、おのずと、教えるためにも研究に実が入るようになるかと思います。

自分で調べてとりに行くのが大変であれば、企業の方々を呼んでの勉強会や、自校の特別講義にでてもらって、その中からヒントをつかむ、とかも可能かと思います。
 
といった状況の中で、逆に企業の採用に関わっている方々(人事、開発共に)は、学校の先生方を責めるほどに最新のゲームをさわり、研究されているでしょうか?

クリエイターじゃないから、さわらないではないですし、自分はいま、コンシューマ開発しかしてないから、スマホのゲームをさわる意味はないから、プレイしない、とかでは厳しいなぁと思います。いつ、自社が、スマホゲーム開発に、コンシューマゲーム開発にチャレンジするか?わからないのですから!

企画の考え方や企画書のフォーマットなどは、決まったものがありません。ですので、ここもその会社流のものを教えているにすぎないかもしれないのです。もちろん、テンプレつくってそれを周知徹底することで、同じカルチャーでものをつくれるというのは非常にいいと思います。ですが、
 
・コンシューマであればシリーズもの
・スマホであれば、ランク上位にあるゲームは似たようなゲームデザイン

 
になってきているわけで、で、あれば、プロも言うほどは、多岐に渡るゲームデザインのゲームをさわっていないかもしれないわけですこの状況で、学校や学生だけを嘆かわしいというのも、やや苦しいですよね?
 
わたしが今回言いたいのは、
 
・企業と学校は、互いをリスペクトして、互いが得意とするところで業界貢献考える
・学校と学生は、学生が腹落ちして、楽しんで開発を学べるように検討する

 
ということです。
そして、いずれも、新しいもの、最新のものを意識してアンテナを張っていないといけないということです。

これまで、コンシューマゲームは、ハードがちょうどいい感じでステップアップしてきました。でも、今後はハイエンド機も、スマホもハードの変化はゲーム開発やプレイに大きく影響するものは簡単にはおきないと思います。新規ハードは、新たなゲームデザインをうみやすいですし、成長もしやすいですが、今後はそれも簡単ではなくなるでしょう(そんなに新ハード簡単にでないですからね)
 
なので、今こそ、真に手を取り合って、実行、振り返りをしていくことかと思います。
学生さんにとっては、来年はありませんしね。
微力ながら、業界に貢献できるように、ファリアーとしても尽力してまいりたいと思います
 
今回は以上で!

 
ご相談、お問い合わせは…

株式会社ファリアー

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第五十三回「ヒトがひとを採る

第五十二回「誇り、やりがい、お金」

第五十一回「キャップは、誰が決める?」

第五十回「出口に対する意識〜後編〜」

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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