【NDC18】「良いゲーム開発者はアーティストである」、ネクソンのオーウェン・マホニー社長が目指す真にユーザーに愛されるゲームとは

ネクソン<3659>連結子会社のNEXON Koreaは、4月24日~26日の3日間、韓国最大規模のゲーム開発者向けカンファレンス「Nexon Developers Conference 18(NDC18)」を開催した。
 
本稿では、本イベントの開催にあたり、オーウェン・マホニー社長にインタビューを行う機会をいただけたので、今後の日本での展開を始め、ネクソンが見据えるビジョン、さらには昨今盛り上がりを見せるe-Sports事情についてもお話を伺ってきた。
 

▲ネクソンのオーウェン・マホニー社長。
 
 

■『DURANGO』がモバイルで生み出した新たな体験とは

 
──:今日がNDC初日となりますが、今年の雰囲気はいかがですか?(※インタビュー実施は4月24日)
 
今朝のカンファレンスからは、現地メディアの方々の関心の高さが感じられました。来場者は、皆さん笑顔でエンジョイされている印象を受けています。
 

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──:韓国と日本のゲーム市場では、主にどういった違いを感じておられますか?
 
日本は、元々コンソール機器でのシングルプレイが主流だったこともあり、オフラインタイトルの歴史が長く、その後にモバイルゲームのブームが来ました。いわゆるガラケーをはじめとした端末によるトレンドです。
 
一方で、韓国は’90年代にネット環境が整備されたこともあり、急激にPCゲームが伸びたという点で日本と差があります。当時はPCゲームの売り上げが市場のおよそ95%を占めるほど勢いがありました。

 
──:そうした市場の違いは、制作者側にも影響がありますか?
 
非常に大きく影響していると思います。最も語られるのは、ストーリーに対する考え方の違いです。日本はオフラインが主流だった歴史がありますので、開発陣はキャラクター同士の掛け合いや会話といったシナリオ面に注力しています。韓国はオンラインが主流という歴史がありますので、ユーザー同士の対話でどうゲームが面白くなるかに注力していると感じます。
 
──:また、ネクソンの主要エリア(中国・韓国)を除く、日本や北米エリアについての昨今の印象はいかがですか?
 
ネクソンにおいては、日本と北米は小さめの売上規模になっています。日本では、韓国のようにPCゲームが市場の最有力になることはないと考えています。一方で、昨今はiPhone Xといったモバイル端末でも、PS3と同レベルのGPUを備えている時代になりましたので、モバイル端末の中で大規模なMMORPGの体験をお届けできるような状態にはなっているのが現状です。数年前までは、モバイルゲームというとガラケーなど電話から派生したものを使用するブラウザゲームのようなカジュアルなものが対象となっていました。それが、今ではパソコンと同等のゲームをお届けできるようになったという点では、今後、日本や北米もスマホの進化とともに新しい市場を開拓できるのではないかと思っています。
 


──:最近では『HIT』が日本市場でトップセールスに入ったりしていますが、これもそうした傾向と捉えることができるでしょうか。
 
確かに『HIT』の活躍もありますが、これはまだファーストステップに過ぎません。今後、日本では、韓国で2018年1月にリリースした『DURANGO: Wild Lands』(以下、『DURANGO』)のリリースが控えています。『DURANGO』は、これまでモバイルでは提供できなかったオープンワールドのMMORPGになります。今までPCゲームでプレイしていたような深みのある体験を、モバイルで実現できたタイトルです。
 
──:具体的な世界観やシステムなどはどのようなゲームになっているのでしょうか?
 
『DURANGO』は、現代人が恐竜たちの住まう異世界にワープするところから始まります。何もないところからスタートするので、生きるために石や木を集め、動物を狩り、サバイバル生活を行いながら島の開拓を進めなければなりません。
 
ここに、オープンワールドの要素が入ることでフィールド上では多くのプレイヤーが狩猟や農耕をすることになるので、『DURANGO』の世界にひとつの経済が出来上がっていきます。社会や政治も生まれてくるという点では、バーチャルの世界でありながら、もうひとつのリアルな世界となる、そういった体験ができます。
 
これは、先ほど話した日本と韓国の制作者の違いにも通ずる話でもあるのですが、日本のRPGは作られた台本に沿ってストーリーが進行するゲームが多いです。その点、韓国のMMORPGは台本的な部分が少なく、プレイヤー同士が会話をする中で新しい選択肢が生じる可能性がありますので、日本では新鮮に思われる方も多いのではないでしょうか。

 
──:オープンワールドのMMORPGを作るにあたって問題点などはありましたか?
 
非常に難しいところばかりです(笑)。あえてひとつ挙げるとすれば、テストプレイでしょうか。大人数が入ることを想定したゲームであっても、テストプレイは少人数からスタートします。数名から始まり十数名、その次は百名と徐々に数を増やしていき、オープンβの時点では10万人規模になります。そうすると、少人数でテストプレイしていたときとは全く異なる世界が生まれます。例えるなら、会社のビルや学校を、全く人がいないときに闊歩するのと、今日のように人で賑わっている状態の中を歩くのでは印象が違いますよね。
 
──:ちなみに、モバイルゲームという点で日本ではガチャの収益が主流になっていますが、『DURANGO』のマネタイズはどのように考えられているのでしょうか。
 
『DURANGO』の世界にも課金で買えるアイテムは存在しています。ただ、我々が最も大事にしているのは、プレイヤーが『DURANGO』の世界を楽しみ続けられるかどうかです。
 
そもそも、ネクソンのビジネスモデルとして、全プレイヤーのうち5%~10%ほどの人しか課金をしていないという状況であっても、残りの95%がフリートゥプレイで楽しめる、ユーザーに「このゲームは面白い」と純粋に思っていただけることが大事だと考えています。このように、ゲームを楽しむことに価値が生まれることを最優先しているので、課金施策は非常に気を遣っている部分ではあります。

 
──:フリートゥプレイのユーザーにも重点を置いているんですね。
 
韓国の国外ではあまり知られていないのですが、フリートゥプレイはネクソンの『Quizquiz』というタイトルが発端なんです。『Quizquiz』は、元々は月額課金のタイトルだったのですが、売り上げが芳しくなくなった際に純粋にゲームを楽しんでいただきたくてフリートゥプレイに移行したのがきっかけです。なので、このときは集金方法を模索していたわけではないのです。
 
ただ、運営を続けるうちにユーザーから「キャラの髪色を変えてみたい」、「洋服を変えてみたい」という要望をいただいたので、これは1ドルくらいなら買っていただけるかな?というところでテスト的に導入したことが上手くいったのです。プレイヤーの方々に楽しんでいただきたい、良い体験をしてもらいたいという想いから始めた施策が、今は「賢い課金システム」として受け取られ、「フリートゥプレイ+課金」で短期的な視点で課金を促すシステムとして流行したことは私としては非常に残念に感じています。

 
 

■「ノー」を突き付けることで何が楽しいかを考え抜く

 
──:『DURANGO』のほかには、今後どのような展開を考えられているのでしょうか。
 
日本では「NEXON Mobile Media Day」でも発表させていただいた通り、年内10タイトルのリリースを控えています。その中には、『HIT』を開発したNAT GAMESの最新作『OVERHIT』のほか、超巨大ボスハンティングRPG『GIGANT SHOCK(ギガントショック)』もあります。また、gloopsが開発を担当しネクソンがパブリッシングを行っている『ドラゴン騎士団』も、つい先日リリースしました(関連記事)。
 
日本以外では、モバイル版『メイプルストーリーM』や『Dark Avenger 3』(グローバル版は『Darkness Rises』)などのグローバル配信を控えています。

 
──:これらの施策には、どのような特徴があるのでしょうか。
 
全ての新作に共通しているのは、現在、市場に出回っているどのゲームとも違う差別化を図っているという点です。あとは、とにかくゲームを楽しめるということ。プレイヤーが心から遊びたいと思えるタイトルを目指しています。
 
ちなみに、今朝のスピーチでもイノベーションがなければ業界は低迷してしまうというお話をさせていただきました(関連記事)。その話を捕捉する形となるのですが、ゲーム開発者にとって最も簡単なゲーム作り方は、ヒットタイトルのコピーです。「マリオ」シリーズや『クラッシュ・オブ・クラン』、『白猫プロジェクト』といった人気タイトルをコピーすることは簡単です。失敗をしたくないという想いからコピーを作ろうとする気持ちも分かります。
 
しかし、私は良いゲーム開発者というのはアーティストであると考えています。コピーではない、独創性のあるオリジナルアートを生み出そうとすれば、失敗することもあります。失敗をすれば業界や社内で批判を浴びることになるかもしれませんし、それはとても辛いことです。ですが、失敗を恐れて新しい挑戦をしなければイノベーションは起こりません。イノベーションがなければ、いつか業界全体が駄目になってしまいます。

 
──:新しいことに挑戦するためには、どういう取り組みが必要だと考えますか?
 
このトピックに関して成功している企業は、世界を見渡しても3つだと思います。まずはスティーブ・ジョブズがいたころのApple、そしてピクサー・アニメーション・スタジオです。この2社の素晴らしい点は、競合のことを気にしないことを徹底しているところです。
 
また、日本では私自身も色々と刺激を受けている任天堂が挙げられます。過去に任天堂の代表を務められた方々ともお会いしてきましたが、彼らはマイクロソフトやソニーの動向を気にするのではなく、自らの楽しいことにフォーカスして物事を進めてきたんです。その結果、ときに当時のトレンドと異なることはありますが、そういった考え方を大切にしていることがポイントではないでしょうか。
 

──:オーウェンさん自身はどういった体験をしてこられましたか?
 
こういったインタビューの際、ゲームにおける成功の秘訣や戦略という話をよく問われますが、大事なのはそこではなく根本的なビジョンです。何が楽しいかを考え抜くことで、真にユーザーに愛されるゲームが出てくると考えています。
 
ただ、これを実現するためには多くの事柄に「ノー」を突き付ける必要があります。例えば、近年ではVRが盛り上がっているときに投資家から「御社のVR戦略は?」と聞かれた際に「VRには賭けないので戦略はありません」ときっぱり言えるかどうかという話です。我々は過去にもFacebookゲームが盛り上がった際に同じような体験をしてきました。17年間、非上場企業として続けてきた時期があったからこそ、何にフォーカスするかというビジョンを強く持てているところがネクソンにとっての強みとなっています。大事なのは、戦略や秘訣よりも、こういった考え方です。

 


──:「何が楽しいかを考え抜く」という点は、今後、配信される全てのタイトルにも共通しているということですね。
 
仰る通りです! また近年、日本ではe-Sportsが非常に盛り上がりを見せているので、多くの方にe-Sportsについて聞かれます。日本ではあまり多くの方に知られていないかもしれませんが、我々は、韓国でe-Sports専用施設「NEXON ARENA」を運営するなど、15年間e-Sportsに対して地道に取り組んできました。そこで感じたのは、e-Sportsにおいて大切なのはメーカーやデベロッパーではなく、あくまでもプレイヤーだということです。彼らが、e-Sportsとは何かということを決めているのです。
 
――:それはどういうことでしょうか?
 
e-Sportsにおいて大事なのは次の3つです。まずはそのゲームが多くの人に「プレイしたい」と思ってもらえるものであること。2つ目に、観戦をして楽しいと思えるものであること。3つ目に、より多くの人と競い合いながらプレイしたいと思えるものであることです。e-Sportsとは、これらのプロセスを経て生み出されるものだと考えています。
 
木を想像してください。何もないところでいきなり天から木の実が落ちてくることはありません。それと一緒で、花や木を種から植えて育てるように、e-Sportsもみんなで育てていくことが大切です。

 
──:最後に読者の方に向けてメッセージをお願いします。
 
「ゲームとは何か」というところに立ち戻りたいということは常日頃から考えています。ゲームの根底にはルールやシステムが存在します。その中で、プレイヤーが「選択する」という行動をとることで、それぞれのストーリーが出来上がっていくわけです。これが映画であれば、作られたストーリーを見るという受動的なものになりますが、ゲームは自分で選択することができるのでそれぞれに全く異なるストーリーが完成します。
 
過去には、自分自身でストーリーを描いていく面白さは、一部の限られたユーザーだけが知る楽しみでしたが、今後はそれが変わっていくと思います。バーチャルリアリティや第二の現実は、多くの人にとって第一の現実よりもよほど魅力的なものになり得ると思います。なぜなら、そこには社会性や政治的な側面もありますし、オンラインの友達ができれば、友達と共に冒険をすることができるという点で非常に面白いものです。没入感が得られるゲームは今後ヒットするでしょうし、市場はどんどん拡大していくと思います。
 
ひいては、テクノロジーの進化もトレンドを後押ししてくれます。モバイル端末の性能はどんどん良いものになり、昨今では音声認識も追加されました。これも、新たな境地を切り開いてくれるひとつのポイントになると思っています。これから5年、10年、そして20年後と、ゲーム業界がどうなるか私自身も非常に楽しみにしています。

 
――:本日はありがとうございました。
 
 
 (取材・文 編集部:山岡広樹)



■関連サイト
 

NDC公式サイト(韓国語、英語のみ)

株式会社ネクソン
http://www.nexon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ネクソン
設立
2002年12月
代表者
代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
決算期
12月
直近業績
売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3659
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