【インタビュー】グリー、住友商事、米イレーションがみる北米における日本アニメIP、ゲームの可能性とは…共同パブリッシングに至る背景をきく

グリー<3632>と住友商事<8053>、米Ellation (イレーション)の3社は、8月25日、北米を中心とした海外において日本アニメIPのゲーム化および共同パブリッシングを行うことについて基本合意した。(関連記事

北米における日本のアニメIPやゲームの可能性をどのようにみているのか。今回の取材では、日本アニメIPのゲームを北米展開するに至った背景や、協業体制や今後の取組みについて、2社(グリーの荒木氏、住友商事の笹島氏、白井氏)に話を聞いてきた。(インタビュアー:美田和成)
 

■デジタルメディア普及による日本アニメ人気の急上昇



▲2017年8月25~27日、米サンタクララで開催され、大盛況だったCrunchyroll Expoにて。
左からグリーの荒木氏、住友商事の笹島氏、米EllationのKun Gao氏。
 
――:よろしくお願いいたします。まず前段として、住友商事は2016年から、日本アニメの海外向け配信サイト大手である米Ellationとの協業を始めておられました。どのような理由があったのですか。
 
笹島氏(以下、笹島):北米における日本アニメの知名度・人気が急上昇しており、住友商事がそこにビジネスチャンスを見出したからです。
 
――:日本アニメの知名度・人気が急上昇していることは知られていますが、その理由をどのように分析されていますか。
 
笹島:IP個別のクリエイティブや人気が出た理由はそれぞれですし再現性が低いものもあるため、ここでは日本アニメに共通するビジネスモデルやスキームの視点から話します。1つ目は、コンテンツ制作における日米のファイナンスのスキームの違いがあります。

アメリカを象徴するハリウッドのファイナンスを例に挙げると、彼らは出資と銀行融資を組み合わせて資金調達を行っています。そのため、意思決定がロジカルかつ合理的であり、過去の実績等からヒットの見通しが立ちやすいコンテンツが好まれる傾向にあります。

一方で、日本のアニメIPは製作委員会方式をとることが多く、純粋なコンテンツの面白さ、可能性といった視点で話をすることができるため、ときにビジネスの感覚では到底理解できないような、しかし一部のファンを熱狂させるような、思いきった意思決定ができるのです。

 
――:なるほど、コンテンツファイナンスにおける「製作委員会方式」の強みが活かされているんですね。日本アニメの知名度・人気急上昇の理由は、他にもあるのですか。
 
笹島:2つ目は、約10年前まで、北米のファンへ日本アニメを届ける手段が限られていたことにあります。当時、北米のメディアはケーブルTVが主流だったのですが、北米と日本ではTVの広告枠の販売手法が異なっており話数など必要要件が違う為、日本アニメが北米の放送枠にはまりませんでした。

また、メディア業界のパワーバランスとしてハリウッドメジャーを含むメディアグループの影響力が強かったため、日本アニメが選ばれにくいこともあったと思います。

そのような状況の中、2008年にCrunchyroll(米Ellationの運営サイト)が日本アニメのストリーミング配信を始めたことにより、日本アニメは、北米のファンにリーチするための「デジタルメディア」という新しい手段を得たことになります。

 
――:Crunchyrollをはじめとするデジタルメディアによって日本アニメの知名度・人気が急上昇したと。
 
笹島:根拠として、Crunchyrollの有料会員数の推移を見ていただくと良いと思います。サイマルor本格的ストリーミング配信を開始した2009年以降、順調に増え続けて、2017年に100万人を突破しました。アメリカの定額課金制の映像配信サービスの中で有料会員数が100万人を超えるサービスは10ほどしかありません。

NetflixやAmazon Primeなどの幅広いジャンルを扱うサービスもある中で、日本アニメを主力としたCrunchyrollがトップ10に入ったことは、北米で日本アニメが一定の地位を築いた証拠と言えると思います。

 
 
 
 
――:ちなみに、北米の日本アニメファンとは、どのような人物像でしょうか。Crunchyrollの会員データから、差支えない範囲で教えてください。
 
笹島:年齢でいうと、いわゆるミレニアル世代、中でも10代後半から20代にかけてが多いです。また、日本との違いとしては使用端末が特徴的で、モバイル端末は3分の1しかなく、逆にコンソール端末経由でのテレビ視聴が3分の1もあるようです。
 
荒木氏(以下、荒木):今のお話は、結果としてこういう傾向が見えたということだと思いますが、私は本来的には“北米のこういう属性の人が日本のアニメが好きだ”と一括りにできないのではないかと考えます。北米といっても人種、宗教、政治思想は幅広く、そうした一般的デモグラフィよりもむしろ“日本のアニメが好き”という方が属性として強いようにさえ思えます。

だから“どういう属性の人が日本アニメファンなのか”とか“北米向けに受けるアニメはどんなものなのか”に頭を悩ませるよりも、すでに存在する日本アニメが好きな人たちに対して“どうやってコンテンツを届けるのか”
という1点を突き詰めて考える方が重要だと思っています。
 
――:ありがとうございます。荒木さんにご発言いただいた流れで、次は日本アニメを活用したゲームの北米における可能性についてもお話を伺っていきたいと思います。
 
荒木:日本アニメを活用したゲームの状況はもちろん、日本アニメ自体の人気と密接に連動しています。ずっと長い間、ドラゴンボールやNARUTOといったごく一部の大型作品を除いては日本アニメの公式配給もあまりありませんでしたし、あくまでごく一部のマニアのものと見なされていました。

そんな中、Crunchyrollをはじめとするデジタルビデオ配信プラットフォームの出現と普及によって、北米における日本アニメファンの人数や市場規模が徐々に明らかになってきました。

 
――:デジタルメディアで会員登録し、課金されたものを集計することによって測定可能になったということですね。結果はどうだったのでしょうか。
 
荒木:結果として、従前はただ“ニッチ”としか認知されていなかった日本アニメの裾野が大きく広がっていることがわかり、北米、ひいては世界を合計すると、日本を凌ぐ規模のファンや市場規模を持っていたことが分かりました。一方で、ゲーム供給サイドの状況も変化してきています。

2008年にApp StoreおよびAndroid Market等のプラットフォームが全世界共通化したことによって、海外配信の障壁が下がり、コスト構造の転換が起こりました。それまでは、海外向けゲームを出すためにはローカライズチームを立ち上げて、流通チャネルを開拓して、と多額の投資をする必要がありましたが、今では日本から全世界向けに配信を手掛けられるようになりました。

新たな流通経路ができたことにより、日本アニメを活用したゲームをより簡単により多くの世界のファンに届けることができるようになったので、これまで以上に、世界における日本アニメを活用したゲームの事業可能性は広がってくると見込んでいます。

 
――:なるほど。御社でも既に、日本アニメのゲームを北米展開されていますが、状況はいかがでしょうか。
 
荒木:最近のモバイルゲームのトレンドとして、アメリカの日本アニメファンをターゲットとして、日本アニメのゲームを、カルチャライズは行わず、あえて翻訳だけ行い展開し成功している例があります。翻訳といっても、声優は日本語のままで字幕を付ける程度にとどめます。日本アニメのファンは、アメリカ向けにカスタマイズされたものよりも、日本アニメやゲームをありのまま体験したいという志向が強いからです。
 
グリーがアメリカ展開を始めた2011年頃は、ゲームの中の課金モデル、日本型のキャラ売りやガチャは新しい概念だったため受け入れてもらうのに時間がかかりましたが、近年では欧米各社から出されているゲームにも当たり前のように日本的なゲームメカニックス、課金モデルが使われているため、多くのユーザーはすでに慣れ親しんでいます。

例えば当社がバンダイナムコエンターテインメントさんと共同で提供している『NARUTO-ナルト-疾風伝 ナルティメットブレイジング』英語版は、2017年8月に米国App Store売上ランキングでTOP10に入っています。
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■映像配信だけでない、トータルで世界観を楽しめる取り組みを


――:日本アニメがデジタルメディアによって北米での人気を上げてきたのと並行して、日本ゲームもプラットフォームによって北米での売上を拡大してきた。日本アニメ、ゲームがともに北米で好調の中、今回の3社協業に至ったということですね。
 
荒木:はい。日本のみならず世界に向けてのゲーム開発を続けてきて、グリーにはゲーム開発と運営のノウハウが蓄積されています。しかし、良いゲームを作るだけではなく、それを求めている人たちにきちんと届ける手段や戦略が必要です。
 
笹島:App Storeを開けば分かるように、市場では無数のゲームが日々、出たり消えたりしています。そのような中で、全世界に散らばっている日本アニメのファンに対してピンポイントでリーチするのは至難の業です。しかし、100万人を超える有料会員を抱えるCrunchyrollであれば、日本アニメのゲームに対して効率的な集客が可能です。
 
荒木:日本アニメのゲームを配信するにあたって、広告を出稿するだけでなく、いかにファンのエンゲージメントを高めていくか、というのも重要です。例えば、ファンイベントに出展する、キャラクター声優の番組を作る等、映像配信だけでなく物販やイベントまで、トータルで作品の世界観を体験してもらえるようなコミュニティを抱えているCrunchyrollであれば、ファンにとっての価値を最大化できると考えました。
 
白井氏(以下、白井):住友商事では、2016年2月に米Ellationと共同で、クランチロールSCアニメファンド株式会社を設立し、日本アニメへの製作投資を行っていますが、昨今ではパッケージ売上の減少に伴い、ただ出資するだけでは儲けにつながらないのが実情です。そのような中、獲得した版権向けのゲームのパブリッシャーとなることで次なる収益の柱にできないか、と考えています。

結果、第一弾として、海外でも人気の高い「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(以下、ダンまち)について、日本版スマートフォン用ゲーム『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』(以下、『ダンメモ』)を成功させたグリー、多数のダンまちファンを抱える米Ellationおよび当社の3社で協業する運びとなりました。
 
 
荒木パブリッシング実務やゲーム運営に関しては、グリーもサポートしていく予定です。カスタマーサポートやQAなどは、外部委託するとしても、グリーのノウハウが役立つはずです。
 
――:開発、流通、パブリッシングと、成功のプロセスを満たす座組になっているということですね。
 
荒木:その通りです。ちなみにこの座組では、グリー以外のタイトルも扱っていきます。ゲーム開発を他社さんがやるとしても、グリーはパブリッシング実務やゲーム運営でサポートしていきたいと考えていますので、北米で日本のアニメファンに向けてゲームを出すときは、ぜひ我々に声を掛けていただきたいです。
 

――:ありがとうございました。最後に、Expoでのエピソードなどあれば、ぜひお聞かせください。
 
白井:Expoでは、北米のアニメファンはどのような人なのか、日本のアニメファンとの違いは何か、来場者と実際に話をすることにより、肌で感じることができました。結論として、北米のアニメファンは日本のアニメファンと大きく違うわけではなく、アニメに対する向き合い方や興味を持つポイントなどは基本的に日本人と変わりないのだと実感しました。もちろん微妙な差もあるようで、例えば、『ダンメモ』の北米展開をExpo特設ステージで発表した際、『ダンメモ』のティザー動画を上映しましたが、ナレーションとして、人気キャラクターの声が使われていると分かった瞬間、会場内にどっと笑いが起きました。一瞬何が起きたのか私には分からず、日本人にはない感性だと感じました。今後、プロモーションを行っていく上では、そういった機微もうまくとらえていきたいです。
 
荒木:Expoにおいて、何人かのアニメファンと会話する機会がもてました。直接話してみて、やはり自分の仮説通り、アニメファンはあくまでアニメファンであり、日本人だから、アメリカ人だからといってカテゴライズする必要はないんだと思いにいたりました。

今回のExpoの動員数は、3日間で延べ3万人。日本のコミケ20万人という数字が頭にあると、3万人は多くないと思われるかもしれませんが、日本のコミケは入場無料です。一方でExpoは入場料(一般)60ドル、VIPチケットは120ドルと決して安くない額ですし、VIPチケットは1日千枚ずつ用意したものが完売したとも聞いています。これを聞いて、北米のアニメファンの購買力、消費欲求の強さを痛感するとともに、この人たちに喜んでもらえるようなゲームを作っていこうと、決意を新たにして帰ってきました。

笹島:アメリカでは毎週のようにアニメファンに向けたイベントが開催されています。アニメエキスポのように10万人規模のイベントもありますが、1社でこれだけの人数を集められるのはすごいことだと思います。Expoの開催場所は交通の便も良くないですが、そこまでお金や時間をかけてコスプレをしてやってくるのは、アニメに真面目に向き合っているからだと思います。アニメに対する強い思いを感じ、この人たちが満足するようなゲームを届けなければと、身が引き締まる思いでした。

 
――:第一弾・『ダンメモ』北米展開の成功と、3社協業の成功を楽しみにしています。お時間ありがとうございました。
デロイト トーマツ

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