​【インタビュー】APMツール「AppDynamics」はゲームアプリの運用で役に立つか? レスポンス低下などUXを損なう事象の早期発見・解消をサポート(後編)



サーバが正常に動いているのに、アプリのレスポンスが異様に遅い、しかしどこが問題なのかわからず、レビューで低スコアが多くついてしまった――そんな問題に応えるツール「APM(Application Performance Monitoring)」が世界的に注目を集めていると前回のインタビュー記事で紹介した。

それでは、APMソリューションはゲームアプリの運用において有用なのだろうか。前回に引き続きAPMの代表的なツールである「AppDynamics」を提供する新日鉄住金ソリューションズのITインフラソリューション事業本部営業本部マーケティング部の叶詠希氏(写真右)と田中俊行氏(写真左)にインタビューを行い、ゲーム運用での利用可能性について話を聞いた。



■新日鉄住金ソリューションズとは
新日鐵住金グループのシステムインテグレーターとして知られている。製造業から流通業、金融業、通信業、公共・公益事業など幅広い分野のシステムソリューションで豊富な実績を持つ。鉄鋼業界出身であるため、"お堅い"イメージが強いのだが、実は2000年台初頭にリリースされた有名オンラインゲームのバックエンドを構築するなど、ゲーム業界との関係も古くからあり、近年は、WEBサービスや、スマートフォンアプリ事業者向けの各種ソリューションサービスにも力を入れている。



■「AppDynamics」とは
「AppDynamics」についておさらいしておこう。APM(Application Performance Monitoring)ツールだ。Webサイトやスマートフォンアプリのパフォーマンスを管理するソリューションで、インフラを監視してサービスの運用状況をチェックするだけでなく、レスポンの低下の有無や、低下している場合、ソースコードレベルから原因を指摘してくれるツールとして、世界各国のWebやアプリ事業者から利用されている。日本国内のIT業界やゲームアプリ業界でも注目を集めている。

【インタビュー】「AppDynamics」はスマホアプリの最適なUXを実現するAPMツール 新日鉄住金ソリューションズに訊く(前編)

 

AppDynamics

 



――:よろしくお願いいたします。前回はAppDynamicsの特徴についてお話いただきました。一番気になるのは、これがゲームの運用で役立つかどうかです。この点についてお聞きします。ゲームアプリはアップデートも多いので、AppDynamicsを導入することでどういった点で便利になるのでしょうか。

叶氏:ゲームの場合、アップデートの度にドキュメント修正をかけてなどは大きな負荷だと思いますので、AppDynamicsの自動マッピング機能はとても便利だと思います。またシステムの変更を検討する際にも、サーバを減らした場合にどうなるのかなどの影響も見ることもできます。
 


――:ゲームのリリース時は特に重要な時期になっています。例えばリリース直後にユーザが殺到してサーバが落ちることもよくあります。このような場合にもAppDynamicsは利用できるのでしょうか。

田中氏:リリース前に行う一般的な負荷テスト時にAppDynamicsを使うと、アプリのボトルネックをそのときに確認することは可能です。サーバが落ちる場合は、マシンのCPUを振り切っているかは見ていますが、アプリケーションが問題なく動いているかまでは見ることができてないのではないでしょうか。

もしAppDynamicsを導入していれば、リリース前の時間がないなかで問題が見つかった場合でも、問題をすぐに特定でき迅速に改善に着手できます。リリース後でも問題が起きるたびに自動的に原因が特定できるため、小さな改善を繰り返すことができます。

叶氏:リリース後に問題がおきると実際に端末を用意してレスポンスなどが遅いかどうかを目視で見て、遅ければ原因を調べるためにサーバやログなどを見ている場合も多いと思います。AppDynamicsを利用することでそれをする必要がなくなります。同じ時間でより多くのテストができるのはメリットのひとつだと思います。

 



――:ゲームではリリース後もイベント、アップデートなども多くなります。アクセスが急激に増えるなどで緊急メンテナンスを行うゲームもよくあります。

田中氏:メンテナンスといっても、「原因調査のためのメンテナンス」を行っていることもよくあります。AppDynamicsを導入すれば、原因は特定できますので、すぐに「原因改善のためのメンテナンス」を行うことが可能です。どこを直すかわかった状態でメンテナンスを行うことで、短いメンテナンス期間で終了することが可能になり、機会損失を最小限に抑えられます。


――:ゲームの場合はゲームの内容ではない部分でも不満があるとユーザがレビューで低い点数をつけることがあります。レビューを重視するゲーム会社も多くAppDynamicsはメリットが多いツールだと思います。

叶氏:ゲームの場合、クレームはレビューに書かれる傾向がありますが、AppDynamicsを使うことで問題が大きくなる前に改善できて、低いレビューを防げるのは大きいと思います。

実は日本でも大手ゲーム会社ではAPMに相当するツールの導入が進んでいます。例えば売上上位の大手ゲーム会社様で同様のツールを自社で持っている会社様もあります。自社で準備するのはハードルが高いと思いますが、一般的なゲームアプリの売上や利益を考えてもAppDynamicsの導入による費用対効果はゲーム会社にとっても大きいのではないでしょうか。

 


編集部注
スマートフォンアプリの運用でも問題となるのが、サービス開始時の高負荷だ。サービスを開始したものの、高負荷によってサービスが停止し、長期メンテナンス入り…そしてサービスを開始したもののユーザが戻ってこない、レビューのスコアは低い…事前に負荷をかけて問題の有無だけでなく、問題点をすぐにあぶり出すことで大きな機会損失を防ぐことができる。

また、障害発生でサービスが止まってしまった、あるいはレスポンスの遅い状況が発生してしまったとしても、AppDynamicsでは、サービスの動作状況だけでなく、レスポンスの遅い箇所、そして、ソースコードレベルまでチェックして、問題点を指摘してくれるのもありがたいところ。つまり、原因究明のための工数が大幅に減らすことで、リソースの浪費を防ぎ、機会損失を最小にすることができる。


 
■導入はタグを追加するだけ 初月無料トライアルも

――:御社でAppDyanamicsを評価している点を教えてください。

田中氏:経緯としては、弊社はもともと約20年前からシステムのパフォーマンスの問題を中心にコンサルティングサービスを提供していました。以前は良いツールがなかったこともあり自分たちでツールを作っていました。その中でAppDynamicsと出会い、コンサルティングするうえでぜひ使用したいということで、弊社が日本で初めてAppDynamicsの販売代理店となりました。

弊社がAppDynamicsを評価したポイントは3点です。ひとつは先ほどの話にもありましたが、導入がとても簡単ということです。二つ目に既存のシステムへの負荷が小さいことです。従来のツールだと導入することでCPU利用率が10%~15%くらい増えることが多かったのですが、AppDynamicsはCPU利用率が2~3%増える程度です。三つめは属人化した運用から脱却できることです。会社によっては知識や経験を特定の人が持っていることがあり、その人の異動や退職によって問題になることもよくありますが、その心配がなくなります。このような点を弊社は評価しています。



――:AppDynamicsを導入する場合は時間や作業の負荷がかかるのでしょうか?

田中氏:導入はすごく簡単で、専門知識がなくても可能です。導入方法を説明すると、サーバサイドでは、APサーバにアプリケーションであるAgentをインストールします。クライアントサイドでは、ブラウザの場合はGoogleAnalyticsと同様にHTMLに一行タグを追加、アプリの場合はアプリにAgentを追加してユーザに配布していただく形になります。これによってControllerという管理サーバに自動的に情報を集約します。本当に導入はすごく簡単で、既存のアプリケーションに一切手を入れる必要はありません。

もちろん、初期のサービスを導入される場合、弊社より、担当者の方へのご説明はさせていただきます。特に難しいことはないと思いますが、利用中の不具合などは弊社サポートセンターで対応させていただきます。

さらに、過去に使ったことがない会社様に使ってくださいといってもすぐに採用を決めることは難しいと思いますので、弊社では現在一か月間無償提供を行うトライアルを行っています。本番想定のツールを提供して、あわせて活用しての効果を見極めるためのサポートも行っています。

 


――:今までのお話を聞いてAppDynamicsはすごく便利なツールだと思いました。実際にはAPMという言葉も日本で広まっていません。これには何か原因があるのでしょうか?

田中氏:要因の一つとして日本は現場の人が帰らずに働けば何とかできると思う文化もあると思います。いろいろな会社にAppDynamicsをご紹介していますが99%のお客様からぜひ使いたいと言われるのですが、現状の人的リソースでなんとかできるかなと考える文化が根付いているのかもしれません。

例えば、スマホゲームの会社では、ゲームを作りたくて入社しても一部の人はバックエンドの仕事に配属される場合もあると聞きます。AppDynamicsを使うことで、このような問題解決の一助になるのではないかと思います。
 

――:エンジニアはどこも不足していると聞きますが、大きな力になりそうですね。最後に読者に一言お願いします。

叶氏:弊社はAppDynamicsの日本法人ができる前から日本でAppDynamicsを販売していて、最も販売実績がありノウハウがたまっています。弊社自体も国内でAppDyanamicsを使用する最大規模のユーザでもありますので、いろいろな面でお力になれると思います。

田中氏:トライアルで提供も行っていますので、ぜひAppDynamicsを一回使ってほしいと思います。


――:ありがとうございました。

 

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