【マイネットゲームカンファレンス③】スクエニ・セガゲームス・gumiのキーマンが語る「スマホゲーム業界の今後」



マイネット<3928>は、7月1日、東京都内にあるマイネット本社で「マイネット ゲームサービス カンファレンス」を開催した。マイネットの上原仁社長による講演のほか、マイネットの新ブランドの発表、そして、セガゲームスセガネットワークスカンパニーCOOの岩城農氏、gumi代表取締役副社長COOの川本寛之氏、スクウェア・エニックスの第8-12ビジネス・ディビジョン担当執行役員の渡辺泰仁氏によるパネルディスカッションが行われた。

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今回の記事では、3人によるパネルディスカッション「スマホゲーム業界の今後を読む」の模様をお伝えする。モデレーターは、マイネットの上原氏が務めた。


 
■3社の戦略
 

・川本氏
国内外でヒットした『ブレイブフロンティア』(以下、ブレフロ)をひっさげて、グローバルで戦える会社として2014年12月に上場したが、ご存知のとおり、上場後はかなり苦労した。『ブレフロ』が全体の8割を占めた状況で、そのピークアウトが想定していたよりも早く、コントロールが難しくなってきた。加えて、海外の地産地消タイトルを含めて手広くやったが、マーケットが成熟化するなかで投資過多になってきた。成長期においては早い段階でネイティブシフトと世界進出の手を打ってきたが、成長痛がマーケットの成熟期に当たってしまった。

そのなかでもここ2年半ほど仕込んできたタイトルがかなりあった。仕込みでいうと、30本以上あったが、世に出せる状態になったのは15本を切るくらい。そのうち10本が出て、最終的には7本がヒットし、ここにきてヒット率が上がってきたのではないか。

2015年に出したもので売上がほとんど出ずに失敗したタイトルがかなりあった。また、開発当初では想定しなかった追加開発が必要になり、遅延の連続となり、結果、市場投入が遅れて、投資額と売上の逆ザヤが出て赤字となった。その中で市場が成長期から成熟期に移行したと想定して、投資の回収を意識した経営に転換した。足元の利益コントロールを私が担当し、将来の成長を担う分野を國光が注力することにした。その意味での3月に2人代表制としたのはこれが背景にある。2016年は反転のところを迎えている。
 

――:ヒット率が上がったのはなぜか?

相当難しい質問だ。当社の売れているゲームと売れなかったゲームの差は、定性的になってしまうが、「魂の入り方」ではないか。ヒットしたゲームは、ゲームに対するクリエイターのこだわりがにじみ出ているのではないかなと思う。

クリエイターの頭の中にあるものをゲームに落としたところ、出てきたものが実際と違う――その作り直しを許容し続けた結果が大きな赤字だったが、その繰り返しが結果的にゲームのクオリティを上げたのではないか。スタジオ制をとっているので、スタジオにおけるノウハウの蓄積も大きかったのかもしれない。


・渡辺氏
2015年は、IPタイトル以外の成績は良くなかった。『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』の大作が出てヒットしたが、それ以外のオリジナルタイトルは苦しかった。そうしたなか、後半、『グリムノーツ』というヒットタイトルが生まれた。ゲームのつくりもさることながら、マーケティングがすごくうまくいった。足元は失速気味だが、まだやれること・やるべきことが多くあるため、前向きに改善に取り組んでいるところだ。

モノづくりの観点でみると、売上の面で箸にも棒にもかからないものがでてしまうことがあったが、トップチームについては安定的に精度の高いゲームが出せるようになっている。現在、世の中に素晴らしいゲームが多く出ているため、そのなかでどうやって自社ゲームの魅力を伝えていくかが重要だ。そして、その運営の中でお客様と一緒にゲームを盛り上げていくことが大切だ。ゲームの中だけでなく、外にも伝えていくことがテーマでもある。
 


・岩城氏
2人と違う角度でいうと、これは一般的な話だが、ゲーム業界は、5~6年周期で回っている。開始24ヵ月で上位プレイヤーが決まって、上位と下位に分かれ始めて、そして、調整期間が訪れる。成熟化した市場では、ターゲットが細分化していくという意味で、散らからない市場はない。

こうしたベーシックな話の中で、セガゲームスでは、コンテンツに関して、F2Pでどういったゲームを出すか、そして、どうして楽しんでいただくかという部分の精度は上がってきている。いま、重視しているのは、どのくらい早くから企画について突っ込んだ話をするか、そして、どのくらいのお客様がいるところにゲームを出すのか、ということだ。4月からは一番規模の大きいターゲット、つまり、海外市場に取り組むことは必須とした。
 



ただ、作り手には迷ってほしくないので、海外の人は意識せず、自分のイメージできるお客様=日本人を意識してゲーム作るように伝えている。海外のお客さんがアプリを手に取って遊ぶ理由を作るのは、ビジネスサイドの仕事だからだ。

その届け方については、当社に限らず、ゲーム業界全体を見ると、ソーシャルメディアの使い方がまだ十分にやっていないと感じている。Instagramのアカウントを使っているゲームタイトルはほとんどみたことがない。スマホのゲームは接触頻度が高いものなので、それに頼りすぎていた。ほかの接触頻度の高いメディアを使っていないことは反省している。2016年はその部分でチャレンジしたい。『ノアパス』でも業界全体で底上げできる仕組みを提供できたらと日々悩んでいる。


 
■市場の成熟度が増していく中での今後1年の戦い方
 

・川本氏
市場は成熟する見通しで、今後はシェアの奪い合いになるだろう。ただ、『パズドラ』や『モンスト』のようなメガヒットタイトルの生まれる余地は少ないであろうという前提のもと、確実にかけたコストを回収するという考え方に変える必要があるかもしれない。

これまでのように多くリリースして当たればホームランというよりは、クオリティの高いものに絞り込み、出すタイトルは確実にヒットにしたい。ランキングでいうと、ベスト50には入れていくイメージだ。最近、リリースされたタイトルでいきなりTOP10に入るような新作もでているが、当社としては狙いに行くのは難しいと考えている。

3月と4月にかけて、グループのすべてのパイプラインはかなりあったが、今の収益と見比べながら選択と集中を行った。いま資本市場向けには8本を開発中としているが、向こう1年に出てくるタイトルはかなりクオリティが高い仕上がりだろう。ベスト30~50に入るようにしている。そのなかで、今年は黒字化を皆さんにお伝えている。第1四半期はゼロの予想だが、今期の通期できちんと黒字を出して、回収期に入ったゲーム産業で立ち位置を確保していきたい。

――:『白猫プロジェクト』を中国で終了だが、『ファイナルファンタジーブレイブエクスヴィアス(FFBE)』をグローバル展開する。取捨選択の考え方は。

当社は、上場前からゲームに関しての戦略は、(1)『ブレフロ』のように国内で開発して国内で売る、(2)国内でヒットしたゲームを海外で展開するパブリッシング、(3)海外で開発したものを海外で展開する、という考え方だった。(2)のパブリッシングについては、国内でヒットしたゲームを当社の築いた海外ネットワークで展開するというもので、『ブレフロ』の成功体験で得たノウハウを使っていこうとした。

それに基づいて、『チェインクロニクル』や『白猫プロジェクト』、『サウザンドメモリーズ』など国内の有数のタイトルを取り扱った。実際にやってみると、他社が開発したタイトルをローカライズしてリリースすること、そして、さらに運営になると、コンテンツの追加も含めて、ゲームの世界観や運営に対するスタイルの違い、開発言語、フォーマットの違いが『ブレフロ』のときとまるで違うことに気付いた。

相応の売り上げは出すことはできたものの、両社でレベニューシェアをすると利益がそれほど大きくなく、両社にとってメリットがない状態になってしまった。これが我々が去年1年間で学んだことだった。今回、パブリッシングについては、自社開発に限ることにした。『FFBE』は、エイリムがスクエニさんと協力して開発したものなので、これであれば『ブレフロ』方式が活用できるのではないかと考えた。
 


・岩城氏
セガネットワークスができて丸4年になる。設立3年で1つのフェーズが終わり、昨年からステージが変わったと判断して戦い方を変えている。もっと早く判断をしよう、もっと熱がこもったものにしよう、技術力やクリエイティビティなどラインの強みを活かしたゲームを作ろう、といったことは引き続き取り組んでいるが、会社として連続的に成長することを掲げているので、海外を含めてチャレンジしていきたい。4G投資など新興国の市場はこれから出てくる。日本のコンテンツは海外などで素晴らしいということはいわれているので、戦い方や届け方を変えて挑んでいきたい。いわばスマホの普及フロンティアを狙っていく。


・渡辺氏
私は去年まで事業部長をやっていた。今期から一つポジションが上がった。当社は、伝統的にディビジョンの力が強い。メディアにはディビジョン長がインタビューに答えているのを目にするかと思う。その良さとして、それぞれのディビジョンに固有のナレッジの蓄積や戦略がある。

私としては、それを長所として残しつつ、市場が成熟化する中で、ディビジョンをつなげる横串のようなものがほしいと感じていた。当社は、他社さんに比べても相当数、タイトルを仕込んでいて、それなりの本数がヒットしているが、失敗しているものも相当ある。精度を上げる取り組みとして、各ディビジョンの戦略やナレッジを整理して言語化できるだけの精度になっているのかをひとつひとつ確認している。

――:ラインの絞り方はどうしているのか。

実は今回、教えてもらおうと思っていた(笑) さきほどSAP勢の復権という話があったが、ラインの絞り方をどうするか。当社は体力任せに戦っているところがある。これをもう少しシェイプしたい。これが就任1年の仕事だと思ってやっている。

これを受けて、川本氏がコメントした。

・川本氏
かなり涙を呑んで、断捨離に近い形でやった。ロジカルに考えると、今の売上がどのくらい増えるのか・減るのかと考えたとき、今の売上で賄えるだけの投資額が出てくる。そのなかで世界中の走っていたパイプラインを経営目線で横串の担当やチームメンバーたちと話しながら絞っていった。結果的に海外に関しては、1スタジオで4ラインのものが多かったので、結果としてラインの閉鎖がスタジオの閉鎖になった。

――:この会場には開発に携わっている人も多いかと思うが、絞られる側にならないようにするにはどうしたらいいのか。

gumiで、外注や海外で作るとなったとき、本社側にプロデューサーなどゲームのクオリティを確認・判断する人間が必要になる。そういう人がいるかいないかで判断したものがある。絞ったタイトルの中には、実験的だが、我々では判断不能なゲームもあり、誰がクオリティを担保するか、スタジオに任せっきりでは危険な香りしかしない。その場合、切らざるを得ない。

ただ、外注では、先方がプロデューサーを立ててくれて、我々が補佐するだけのものもあった。たとえば、『クリスタルオブリユニオン』というタイトルはオレンジキューブさんと一緒にやったが、基本はお任せだった。こっちでもサポートしないといけない案件の場合については、人材が用意できない場合は絞らざるを得なかった。


 
■ゲームサービスの使い勝手
 


・川本氏
昨年、WEB事業から撤退したが、その中でマイネットに『ドラゴンジェネシス』など3タイトルと一部運営チームのスタッフを引き取ってもらった。今回登場した西久保氏もその一人だ。マイネットさんで活躍してくれていて、嬉しく思う。開発と運営は似て非なるものだ。会社によっては、新規開発が偉くて、運営は下だという扱いになることもあると聞く。それが起こると社内にある種の不協和音が出てきてしまう。

とはいえ、運営と開発のノウハウは別だ。開発をしてリリースして一定の期間が経過すると、人を減らして安定運用に入り、新しいタイトルの開発に入る。当社のように開発ラインが多い会社でも、どんどん人を増やすフェーズではない。リソースに限りがある中で、人材の再配置が必要になっていく。その観点からゲームサービスの使い出は増していくのではないか。


・渡辺氏
当社は、家庭用ゲームソフトを作っていたので、開発のカルチャーが強かった。F2Pの事業をやるにあたって、運営重視の体制にしていった。このため、当社内には、運営チームを下に見るようなカルチャーはない。日々の業務を回すことにコミットしてやってもらっている。

ただ、利益を出しているタイトルの運営に関わっているスタッフは優秀な人が多い。そういうチームに新しい人が入ると育っていく。育った人を早く次のタイトルの開発に充てたい、もっと活躍させたいと考え、今回、『三国志乱舞』でマイネットさんにお世話になった。このゲームに携わっていたスタッフが次のヒットタイトルの開発に取り組めるようになった。


・岩城氏
ゲーム会社にとって最大の資産は、お客様との関係値だ。ゲーム運営を通じて、それを保ちたいというのは、経済合理的にも定性的にも感情的にも正しい。そのうえで、収益と投資の短期・中期のバランスのとり方や、人員の成長・再配置をどうするかといった悩みがある中で、外部の会社にゲーム運営をお任せすることができるのならば、ぜひやりたいと思った。『ドラゴンコインズ』と『ボーダーブレイク』でお願いした。


 
事業の抱負について
 

・川本氏
ここから1年という観点からいうと、今期は開発してきたゲームをしっかりとリリースしてヒットさせつつ、すでにヒットしているものも、売上・利益の最大化を狙う。同時に、海外展開もしっかりとやっていく。gumiの強みをより生かした事業展開を行いたい。

また、スマホゲーム産業自体が成熟していく中で、次のアップサイドを求めることもやらなくてはならない。そこに関しては、國光がやっているVR事業だ。投資体力を考慮しながら、将来に対する種まきをきちんとやっていく。


・渡辺氏
新任の執行役員として、複数のチームをみているが、当社では、あるチームができていることがあるチームでは全くできていないことがある。その逆も然り。お客様のエンゲージメントを高めていくという観点からすると、『乖離性ミリオンアーサー』チームは、イベントやニコ生などお客様と一緒に遊んでいくのがうまい。それがどうやったら、ほかの部門に浸透するのか、横のナレッジ共有を進めていきたい。それを通じて、事業全体の一段の高みを目指したい。


・岩城氏
コンテンツ面では、F2Pの売上に占める割合が非常に多いので、少しビジネスモデルを変えることにチャレンジしたい。先ほど話したソーシャルメディアの活用など世界観の伝え方も含めて挑戦したい。『チェインクロニクル』でこれから新しい発表があるので、面白いチャレンジをしたい。
 


最後に会場からは合従連衡の可能性について質問が出た。かつてセガとサミー、スクウェアとエニックスなど合従連衡が起こったが、スマホのマーケットでも起きるのだろうか。

・川本氏
一定の合従連衡はあるだろうとは思うが、難しいだろう。gumiとしては、過去、エイリムやフェンリスを買収した。海外のスタジオもコンソールの開発会社からチームごと来てもらい、スタジオを組成したものもある。総論でいうと、スマホゲームに関しては投資対効果としてはあまり高くないという印象を持っている。

コンソールゲームの合従連衡と違うのは、モバイルゲームにおけるIPというものが作りにくいからだ。モバイルゲームは、運用中にアップデートしていくため、シリーズタイトルのように、新作が作りづらい。

そうなると、M&Aの目的が開発力や収益力の強化となる。開発力強化の場合、開発スタッフが辞めてしまうリスクがある。ゲーム作りは人がすべて。買収後の不安定な時に人が辞めてしまって何も残らなくなるかもしれない。また収益力に関しても、ゲームというものはどうしても飽きが来る。買収額は2年、3年で回収できないものになるだろうが、肝心のゲームの人気が落ちてしまい、回収できず、割に合わないものになる可能性がある。


このほか、渡辺氏は、エニックス時代にスクウェアとの合併を経験したが、あれほど濃いカルチャーを持った会社同士の合併はそうは起こらないのではないかとコメントした。また、岩城氏は世界のトップ企業と戦うための規模になるための合併などはむしろ起こしたい・起こってほしいと語った。
 



 
マイネット創業10周年記念祭


▲マイネットの上原社長とセガゲームスの里見治紀社長

 
▲乾杯の音頭をとった里見社長。


 
▲カンファレンス終了後、マイネット創業10周年記念祭が行われた。多くのゲーム業界関係者が訪れた。

 
▲マイネットの10年の歩みがわかるパネル。
 
 
▲会場には屋台が出て、射的などのほか、各種の食事を提供していた。

 
(編集部 木村英彦)
株式会社マイネット
http://mynet.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社マイネット
設立
2006年7月
代表者
代表取締役社長CEO 岩城 農
決算期
12月
直近業績
売上高87億1700万円、営業利益1億6800万円、経常利益1億2500万円、最終利益1億4300万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3928
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