【インタビュー】デザインにストーリーを持たせる…『モンスト』『ブラナイ』を手掛けるXFLAG™ スタジオのデザイナーチームが語る制作現場


現在ミクシィでは、今後の事業拡大のため、様々な職種で採用面に力を入れている。

『モンスターストライク』や『ブラックナイトストライカーズ』など、スマートフォン向けアプリを手掛けているミクシィ<2121>。ヒット作も多く抱えている同社だが、そのきっかけとして誰からも愛される、キャッチーなデザインがあることは言うまでもないだろう。広告はもちろん、公式サイトや雑誌の表紙、イベントに登場する何気ない装飾に至るまで、デザイナーが関わり、人気を牽引してきた部分は数多い。

今回「Social Game Info」では、XFLAG™ スタジオのクリエイティブチームに所属する山中氏、森氏にインタビューを実施。デザイナーが日々どんな思いで制作に励んでいるのかを聞いてきた。

 

 

■意識するのは、広告を見たユーザーが遊びたくなること




株式会社ミクシィ
エックスフラッグスタジオ
マーケティング部 クリエイティブグループ マネージャー
山中 慶 氏(写真右)

株式会社ミクシィ
エックスフラッグスタジオ
マーケティング部 クリエイティブグループ グラフィックデザインチーム リーダー
森 政輝 氏(写真左)


――:本日はよろしくお願いします。まずは山中さんと森さんの現在のポジションと、携わっている業務について教えていただけますか。

山中慶氏(以下、山中):僕は『モンスターストライク』を始めとしたXFLAG™ スタジオのアプリのマーケティングに携わっています。ゲーム本編ではなくサービスの運用で必要となる広告クリエイティブを中心にディレクションを担当していて、ネット上に展開するバナー広告をはじめWebサイトやランディングページ、紙媒体の制作もしています。ほかにも、アプリゲーム系雑誌の表紙やオフラインイベントで使われるクリエイティブを監修することもあります。

森政輝氏(以下、):私も同じく、ゲーム外のデザインが主な業務になります。山中と共に雑誌の表紙を監修したり、バナー広告、海外でのOOH(交通広告)も担当しています。また、クリエイティブを制作する際に、キャラクターやオブジェクトの配置などを指示することもあります。

山中:僕らが所属するクリエイティブグループはグラフィックデザインとテクニカルデザイン、あとは映像製作に分かれていまして、僕はテクニカルデザインのチームに所属しつつクリエイティブグループのマネージャーとして全体を見渡し、森はグラフィックデザインのチームで、制作現場に特化したスタッフという立ち位置ですね。
 

▲制作されたウェブサイト(一部)


――:テクニカルデザインとなると、具体的にどのような業務を担当することになるのですか。

山中:テクニカルデザインは、Webサイトやアプリの中から見られるWebViewの制作を担当しています。あとはデジタルサイネージのグラフィック、インタラクションの表現部分を受け持つこともあります。しかし主な業務はWebサイトなので、ユーザーさんにとって使いやすいか、求めている情報が簡単に見つけられるかを念頭に置いて制作しています。


――:では、『モンスターストライク』公式サイトのデザインは山中さんが担当したと。

山中:いえ、実は日本国内の公式サイトは僕ではありません。というのも、僕はもともとグローバル担当のスタッフとして入社して、台湾や北米などの立ち上げにデザイナーとしてアサインし、WebサイトからOOH(屋外広告)を始め当初はゲーム内バナーまで担当していました。その後国内のクリエイティブも担当するようになりました。


――:分かりました。次に森さんが所属するグラフィックデザインのチーム内で、こだわっていることはありますか。

:まずはどのような案件でも、ひと目でそのタイトルだと分かることが大切ですね。キャラの配置や文言などをストーリー立てて配置するなど、デザインに意味を持たせています。さらに広告を見たユーザーさんが遊びたくなるグラフィックは強く意識しています。グローバル案件の場合は、その国の文化に合ったデザインも意識するところですね。


――:『モンスターストライク』といえば、海外展開第一弾として台湾での提供を行っていますよね。台湾と日本での広告に違いは感じられますか。

:台湾はとにかくゲーム関連の広告に派手なものが多いので、そこに埋もれてしまわないことが大切ですね。あとは旧正月など、日本とは違ったタイミングで大きな行事があるため、現地の習慣や文化に合わせることも必要だと感じました。制作する広告も、現地で行われる時期ごとのイベントにあわせ馴染み深い装飾を施したりと工夫しています。たとえば台湾の旧正月時期の広告ならば提灯の装飾などを入れつつデザイン全体のフレームを文化にあわせたものにしてストーリー立てるなどですね。
 

▲香港OOH


▲台湾旧正月OOH(エスカレーター)


▲台湾旧正月OOH(歩道橋)


――:台北ゲームショウでも、『モンスターストライク』のOOHはかなり目立っていました。

:まさに私が作ったものですね(笑)。それとは別で、台湾で開催された音楽祭にも『モンスターストライク』がコラボしまして、その制作物もすべて私たちが担当しました。イベントの際には私も現地に足を運んで、会場の様子も見てきました。

山中:国内のOOHは制作していないものの、国外クリエイティブになるとちょっとしたものでも僕たちが担当しています。音楽祭会場のモニターで流れていたスポンサー映像などもクリエイティブグループで製作していました。
 

▲台湾の音楽祭「KKBOX」展示パネル
 

▲台湾の音楽祭「KKBOX」幕間映像


――:イベント会場は想像以上に『モンスターストライク』が目立っていて驚いた記憶があります。

:そうですね。ただ、音楽祭と大掛かりなコラボレーションをするのは初めての経験だったので、悩む部分も多かったです。中でも、イベントが開始すると照明が落とされるので、暗くても見えるよう色使いに気を使うことなどがありました。

山中:ほかにもイベント会場の外にある柱に設置するクリエイティブは、そこを歩く人の目の高さやロケーションに合わせて配置を変えたりと、気をつける点は多かったです。また、イベントは人が流れていくものなので、入場した人がどういう順番でクリエイティブを見ていくかも意識しました。音楽祭という性質上『モンスターストライク』を知らない人も来場するイベントですので、使用するキャラクターもコアすぎず、ライトな人が見ても認知しやすいものを選択していきました。


――:イベントの内容にうまく調和させたのですね。
 

:クリエイティブに使用したキャラクターは、すべて楽器を持っています。単純な事ですが音符をモチーフにした飾りを入れるなど、イベントのイメージに合った形で、『モンスターストライク』がうまくデザインされていたと思います。


――:話を国内に戻しますが、お二人が所属する部署の体制を教えてもらえますか。

山中:さきほども少しお話しましたが、デザイナーとしてはWebサイトなどをデザインするテクニカルデザインチームと、紙媒体やバナーなどを制作するグラフィックデザインチームの2つに分かれています。そのほかに映像クリエイターが所属する映像制作を請け負うチームもあり、これらが1つのクリエイティブグループとして動いています。


――:仕事のフローとしては、マーケティングチームから依頼が入るのですか。

山中:それもありますが、日々のタスクとしては企画側から出てくる依頼のほうが多いです。マーケティングチームが絡むのは、イベントの制作物が主になりますが、やはりサービス運用の過程で必要になる制作は、企画側から発生するケースが多いので。


――:イベントというと、新作の発表会で使用するスライドなどを制作する機会はありますか。

山中:スライドそのものを制作することはありませんが、スライド内で使うサービスタイトルのロゴなどは僕たちで製作や調整を行いますね。


――:ロゴは開発チームが作るものだと思っていたのですが、違うのですね。

山中:開発チームが作るケースもありますが、ロゴやキービジュアルはゲームの内容や魅力を自然に伝えるためのツールとして存在するものだと捉えており、マーケティング部に属するデザイナーがアサインして製作する事で伝えるべきものを端的に表現できるのではと考えています。
 

▲『ブラックナイトストライカーズ』キービジュアル


――:なるほど。たしかにロゴやキービジュアルはユーザーさんが最初に見るところですし、マーケティングが関わるのも正しいやり方ですよね。

山中:戦略や開発の都合などもあり発表会でゲーム画面をお見せできない事もあります、そのため、その時出せるものを発表するのですが、場合によってはズレた印象を持たれてしまう可能性も出てきます。受け取る情報にズレが生じないようロゴなどのグラフィックも、開発だけではなくマーケティング部に属するデザイナーが一体となって作るのは理想的だと思います。


――:ユーザーさんに印象をあたえるという意味では、ストアのアイコンもありますよね。

山中:アイコンになると、ブランドチームが別途あり、そちらが監修しています。キャラクターの角度、持っている武器がしっかり入るかなどもチェックしていますね。もちろん、アイコンに使用するイラスト自体の監修もイラストチームと共同で行っています。


――XFLAG™ スタジオのクリエイティブグループを通して、何か印象的だったエピソードはありましたか。

:昨年、弊社も出展したニコニコ超会議にて、大相撲と『モンスターストライク』がコラボレーションをしたんです。そのときに懸賞幕やのぼり、パンフレットの制作を任されたのは印象に残っています。大相撲に関わるなんて想像もしていなかったですし、パンフレットも相撲のイメージに合ったキャラクターを選定したりと、普段とはまったく違った作業を楽しめました。



山中:キャラクターには相撲のまわしを締めさせたり、これまでにない取り組みもありました。どうやって締めさせたら違和感がないか、デザイナー同士で相談しながらの作業でしたね(笑)。

:イラストを担当するチームに、そもそもまわしを締めさせてもいいのか確認を取ることもありました。ブランディング上やっていいことなのか、不安な部分もあったので(笑)。
 

▲『モンスト』キャラクター_相撲バージョン


▲相撲のぼり


――:キャラクターを利用した挑戦もあったのですね。

:そうですね。別のイベントではスキーヤーの姿にさせることもありましたし、確かに盛んに挑戦していますね。台湾の音楽祭で楽器をもたせたキャラを使ったように、ロケーションやイベント内容にあわせてキャラ選定やデザインをする事で、それまで『モンスターストライク』に触ったことのない人へアプローチできるチャンスでもありますし。

山中:守るべきところも確かにありますが、それ以上にユーザーさんが受け取ったとき、驚きや楽しさを感じてくれるほうが大切だと考えています。


――:では、山中さんはなにか印象に残っていることはありますか。

山中:アニメや3DS版など、メディアミックス展開のクリエイティブはどれも印象に残っていますね。アニメは2015年7月に情報を公開しましたが、僕らはティザーサイト制作などを担当していました。そのサイトは謎解きを散りばめていて、期間中に解けた人がほとんどいないくらい難しいもので。スマートフォンで確認しないと答えが出なかったり、YouTubeの動画を見ないとヒントがなかったりとさまざまな仕掛けも用意していました。
 

▲アニメ『モンスターストライク』ティザーサイト
 

――:たしか、最初の謎解きは簡単だった記憶があるのですが、最後までクリアした人は少なかったのですね。

山中:公開期間の関係もあり全体のアクセス数のうち、0.3%くらいだったはずです。モンストアニメは本編にも謎が散りばめられていて、その導入として「謎があることを印象付けたい」、「とにかく難しくしてくれ!」なんてアニメ担当者のオーダーを後ろから受けて必死に作りましたね。普段はわかりやすく親切に制作する事に重きをおいているのに、真逆を目指すのがすごく印象的でした(笑)。こういった制作に関われたことは技術的にも面白かったですし、Twitterなどでユーザーの方々の反応をダイレクトに感じられたのも印象深かったです。


――:結果的にはユーザーの興味もひけて成功だったと。

山中:そうですね。あとはメディアミックスのプロジェクトですと、ニンテンドー3DS版『モンスターストライク』のWebサイトや雑誌広告も僕らが担当していました。まさかコンシューマのプロジェクトに関われると考えてはいなかったので、純粋に嬉しかったです。
 

▲ニンテンドー3DS版のWEBサイト


――:ちなみに、3DS版のパッケージデザインはどなたが担当されたのですか。

山中:パッケージとなるとまた違ったスタッフになりますが、色校正のチェックはしていました。パッケージに限らず、色校正が上がってくるものは目を通すようにしています。

 

■デザインにストーリーを持たせて深みを出す


――:ここからは採用面についてお話を伺えればと思います。今後新しいスタッフが入った場合、評価の指標はなにか定めているのですか。

:一番大きなところは、自分から動けることが大事だと考えています。人によっては分からないことがあると、周囲の人に助けを求めることがあると思います。それも大切ですが、まずは自分で調べてみることも重要です。行動力があるかは、面接のときも意識してみています。

成果物に対する評価となると、クオリティのほかにバリエーションにも気を配ります。文字の装飾だけを見ても、同じ系統のものばかりでは幅も広がらず、評価が難しくなります。弊社は紙媒体やイベントでのデザインも行うため、デジタル主体のデザイナーであっても文字詰め・文字組など今まで気にしなかったことにも注目していただきたいですね。

山中:僕たちは企画なりマーケティングなりから依頼を受けて制作することになるのですが、その先にユーザーさんがいることを意識しなければいけません。ユーザーさんの存在を見据えながらクリエイティブを進められる人は、評価の対象になりやすいです。デザインの中身に関しても、言われたことを実行するだけでなく、独自性を持たせることも大切ですね。

単純な事ですが翼の生えたキャラクターを使うのであれば、あたりに羽根を散らせてみたり、設定のバックボーンを活かした背景を考えてみたりですね。抽象的な表現ですが、デザインにはストーリーが必要で、見た瞬間の「納得感」「あるある感」みたいなものが得られるクリエイティブを作れる方にぜひ来て欲しいですね。


――:社内には、何かデザインチームならではの制度・環境はありますか。

山中:僕のほうではクリエイティブチーム全体が参加できる講座を定期的に開いていて、多くのスタッフが参加しています。テーマもさまざまで、JavaScriptの講習会やデザインに関する書籍の読書会などがあります。JavaScriptの講習では簡単なアニメーションを作ってみたり、文字の表示を変えてみたり実践的な内容ですね。実務に活かせる機会もあるので、講座は毎日行っています。


――:毎日開くというのはすごいことですね。

山中:大体1日30分くらいで、参加は自由なのですが、テクニカルデザインチームだとほぼ全スタッフが参加してくれます。そのおかげもあって、ウェブデザイナーだけどCMSサイトの構築が出来たり、ゼロベースからJavaScriptが書けたりと、多彩なスキルを持ったスタッフが育ちつつあります。

もうひとつの読書会ですが、これは僕自身せっかく本を買っても時間が作れず、積んでいくことが多々あったのです(笑)。また、読んだとしても実務的なところばかりで、全体を読む機会はあまり作れません。書籍の購入代は会社が補助してくれるので、メンバーが社内から各々読みたい本を持ち寄ってもくもくと読んでいますよ。


――:森さんは社内環境についていかがですか。

:設備もしっかりしていて、最新のハードウェアが欲しい場合は基本的に購入してもらえます。モニターもほぼ全員がツインで、しかも希望した製品を購入してくれるので、こうしたサポートがあるのは嬉しいところですね。


――:新規スタッフを募集する際、お二人が求めている人物像があれば教えてください。

:理想を言えば、紙媒体とWebの両方で制作経験があると嬉しいですね。加えて、自分の意見や考えを積極的に提案してくれると活躍しやすいと思います。言われて作るだけの人だと、やはり活躍は難しく、製作したクリエイティブが持つ意味をしっかりと語れる人が望ましいです。

山中:キャラクターと文字を組み合わせるだけでもデザインは出来上がりますが、そこにストーリーを持たせると広告にも深みが出ますよね。それにアプリが持つ世界観が伝われば、たとえ作品を知らなくても興味を持ってもらえます。これが実現して初めて、広告の力は最大化すると考えています。ですのでデザインでストーリーを作れる方を求めています。
 


――自分が作ったものに意味を持たせることが大切なのですね。

山中:そうですね。あとは実務的な話になりますが、ゲームや映画、マンガなどのエンタメ業界を経験していると活躍できる幅は広がると思います。キャラクターや世界観を使って表現することに慣れているはずですし、僕らも一緒に働いてみたいと思います。


――現在のXFLAG™ スタジオでも、ほかのエンタメ業界から得たエッセンスをアウトプットする機会はあるのですか。

山中:『モンスターストライク』のアニメもそうですが、扱っているものが多岐にわたるのでメンバーが経験してきた技術や知見は活かせますよ。ですので、ゲームに限らずエンタメ業界に関わってきた人は大歓迎です。


――:では、すでにゲーム業界以外から来たスタッフも在籍しているのですね。

山中:そうですね、映画業界や医療系のWebページを作っていた人なんかもいます。全員に言えることは、面接のときに見せてもらったクリエイティブに相手に伝えようとする意思が感じ取れた所ですね。見た目的なデザインのクオリティも大事ですが、人に伝えるデザインを作れる方であれば力になってくれるのではと考えています。


――:お二人には今後チームをどうしていきたいか、展望はありますか。

:チームとしてまだまだスキルアップしていかなければいけないと思っていますし、課題も多いと感じています。だからこそ勉強会も積極的に参加して、全員がまんべんなく、オールマイティに仕事ができる環境を整備していきたいです。例えばですが「グラフィックデザイナーだからJavaScriptなんて覚えなくていい」ではなく、どんな事でも貪欲に身につけていってほしいですね。

山中:森が言ったとおり、オールマイティに活躍できるメンバーの育成は必要だと考えています。自身の担当分野のみではなく全体が把握できるようになると、自然とクリエイティブの質も上がってきます。木を見て森を見ずではないですが一箇所だけを見ているだけだと、なかなか全体のクオリティアップにつなげるのは難しいです。デザイナーとしてのポジショニングをキープしつつウェブデザイナーは紙媒体、グラフィックデザイナーや映像クリエイターはコーディングやフロントエンドを身につけるなど、限界を決めずに技術を通じて広い視点を持ってチャレンジし続けて欲しいですし、そういった姿勢を応援する環境がXFLAG™ スタジオにはあります。


――ありがとうございました。
 
(取材・構成:編集部  原孝則)
(文:ライター  ユマ)


■ミクシィ
 
株式会社MIXI
https://mixi.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社MIXI
設立
1997年11月
代表者
代表取締役社長 木村 弘毅
決算期
3月
直近業績
売上高1468億6700万円、営業利益248億2000万円、経常利益182億5000万円、最終利益51億6100万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2121
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