【インタビュー】「中国、米国に次ぐ世界3位のスマートフォン市場の可能性も」…インドのスマホゲーム市場動向に迫る


昨今、次なる成長市場としてBRICS(有力新興国:ブラジル、ロシア、インド、中国)に注目が集まっている。ソーシャルゲーム業界においても、グローバルでの急速なスマートフォンの普及に伴い、ASEANと並びBRICSへの展開を検討する企業が増えてきている。
 
今回はBRICSの中でも注目を集める「インド」のモバイルソーシャルゲームの市場動向について、有限責任監査法人トーマツの美田和成氏(写真)にインタビューを行った。今回は、ASEANのゲーム市場インタビューの続編にあたる。
 
 

■世界最大級の購買力ポテンシャルを持つインド市場


――: まずインドはなぜBRICSの中でも注目を集めているのでしょうか?

世界の経済力が北米、欧州、日本といった現在の先進国から、新興国へシフトする動きが今後35年にわたり続くといわれております。その中でも既に大国となった中国の経済成長は2020年頃を境に減速する見通しですが、一方でインドはその後も急成長し、中長期的に世界経済を支えるメインプレイヤーになるといわれております。

その要因としてまずは人口が挙げられますね。日本の9倍の国土を持つインドですが、人口は現在12億人で中国に次ぐ世界2位です。また中国が2030年には人口減少に転じる一方インドは増加を続け、
2050年には16億人強まで増加し世界最大の人口になります
 
▼2050年の人口予測
 

――: やがてインドは世界最大の人口国になるのですね。

はい。人口構成についても注目すべき点がありまして、現在の12億人のうち25歳以下の若者が半数強を占めます(2011年国勢調査)。日本の平均年齢45歳と比べるとかなり若いですね。若年層が多いというは労働力、生産力、消費などの側面で重要なポイントです。またGDPについても2050年には世界2位に躍り出ます

▼2050年のGDP予測

また市場規模だけでなく地政学的なメリットもあります。新興市場としてアジアが注目を集めておりますが、同じく今後人口が伸び経済が成長していくアフリカ大陸の存在があります。日本から見るとアフリカは遥か遠くに位置しますがインドから見るとアフリカは意外に近く、インドを軸にアフリカ展開を考えるというシナリオも成立します。既に自動車メーカーではインドで生産した自動車をアフリカに輸出するという展開もスタートしております。


――: インドのポジティブな側面について触れていただきましたが、ネガティブな点、注意すべき点はいかがでしょうか?

重要な視点ですね。まずGDPは2050年に世界第2位となりますが、1人当たりGDPで見るとその時点でも107,000ドルで、中国(158,000ドル)、アメリカ(181,000ドル)、日本(169,000ドル)に比べ下回るなど、1人当たりでみるとまだ発展途上な側面はあります。

その背景には、富裕層(インドに拠点を置き100万ドル以上の資産を持つ人)が現在25万人、2023年には100万人規模になる一方で、1日2ドル以下で暮らす層が70%近く存在する事もあり、貧富の差が激しいのもインドの特徴の一つです。

また12億人という人口だけを見て「12億の市場」と認識するのは危険です。

島国、単一民族・言語の日本とは違い、インドは20を超える公用語、宗教、文化習慣、北はヒマラヤから南は熱帯、ジャングルも砂漠ある自然環境の違い、といった多くの要素で構成されております。

このような多様性を考慮し、既にインド市場に参入している消費財、製造業等の業界では自社の商品の特性等を踏まえ、12億ではなくまずは1億、2億というセグメントに分割して、短期・中期・長期に分けて段階的に進出していくケースが多いですね。

とはいえモバイルコンテンツの場合、オンラインですのでそのあたりの課題は大分払拭されるとは思います。


ややネガティブな側面に触れましたが、GDPが世界2位ということは、圧倒的な購買力を持つ重要な市場になることは間違いないですね
余談ですが、日本は2050年にはシェアを落とし、経済規模としては多くある国の一国に過ぎなくなります。
 

――: スマートフォンの普及状況はいかがでしょうか?

インドはまだフィーチャーフォンが主流(6億台)ですが、スマートフォンも2017年度には1億5500万台の出荷予測で、中国、米国に次ぐ世界3位のスマートフォン市場になります。出荷台数シェアは世界全体の7%(2014年)から15%(2020年)に成長します。

▼2017年のスマートフォン出荷予測

 
現時点で既に累計2億台出荷されているという話も聞きますが、一方で普及率はまだ27%に過ぎず今後確実な成長が見込めます。アメリカの次にインドに狙いを定めたGoogle社の戦略は納得感がありますね。
 
▼海外各国のスマートフォン普及率
 
――: スマートフォンが急速に普及している背景にはどのような要因がありますか?

まずは価格です。1万ルピー(17000円前後)の手が届きやすいAndroid端末が人気です。一方でiPhoneは10万円以上するので一般の方にはハードルが高く、普及は全体の2%程度です。メーカーはサムスン社が人気(シェア3割)ですが、2位以下のマイクロマックス、カーボン社などのインド企業も貢献しておりますね。

二つ目には、SNSの普及です。インドの方々はSNSが大好きで
Facebookのユーザー数は1億人を超え現在2位。首位の米国(1億2千万人)に迫る勢いです。Facebookを初めとしたSNSの利用、カメラを用いたSNSへの投稿、動画サイト閲覧が目的でスマートフォンを持ちたいという方が急速に増えております。

メッセンジャーアプリも日本と同様に頻度高く利用されており、「WhatsApp」(1億人)、「Hike」(5000万)、「WeChat」(4000万)などが人気です。
 


――: SNS利用者数がそこまで多いのは意外ですね。他にはどのようなスマートフォンの利用目的がありますでしょうか?

スマートフォンの普及に伴いEコマースの利用も近年加速しております。

「Flipkart」「Amazon」「Snapdeal」などのECサイトが人気で数百~数千万単位での会員を抱えており、スマートフォン(フィチャーフォン経由も)でECを行なうことはもはや普通ですね。まだまだクレジットカードの普及率が低く、決済手段が限定的なため代引きが主流ですが、それを支える流通網(パパママ・ストアなどを活用)がしっかりしており、本や雑貨だけでなく生鮮食品をECで購入するユーザーも多いです。

このような背景もあり、近年では大都市の富裕層だけでなく都市部の中間層にもスマートフォンは広く普及しております。

 

――: 気になる通信速度はいかがでしょうか?

今や日本ではLTEが主流であり3Gは一昔前の感覚がありますが、インドは現在3Gの成長時期で、地方に行けば3Gすら使えないエリアがたくさんあります。

また3Gも日本の3Gより遅いように思います。通信環境も不安定で大都市に行けば通信が安定するというわけでもなく、地域によりまちまちです。都市部ではWiFiが使える場所はありますが3Gより遅いケースもあります。


通信環境は年々よくなって来ておりますが、発展途上ということもあり日本と比べると弱いのは確かですので、提供するコンテンツの容量と提供するターゲット・エリアを考慮する必要がありますね
 

――: インドのゲームトレンドはいかがでしょうか?

まずコンシューマーゲームについては、アクションやレース、クリケット、パズルなどジャンルを好む傾向にありますが、コンシューマーゲームのハード、ソフトは関税等の影響も有り日本の販売価格の倍近い金額のため、購入できるユーザーはかなり限られており市場規模は非常に小さいです。PCゲームも一定人気はありますが、ネット環境が不安定なこともあり、PCオンラインではなくオフラインのものが人気ですね。

他の新興国の場合、中国、韓国系PCオンラインの経験からPCオンラインをベースにゲーム産業が発展していくケースが多いですが、インドの場合何色にも染まっていないため、普及しつつあるスマートフォンと共にモバイルゲームから市場が開けていく可能性が高いです

 

――:なるほど。 気になるモバイルゲームトレンドはいかがでしょうか?

インドのモバイルゲームの市場規模は150M(ドル)とも800M(ドル)とも言われますが、150M(ドル)が現実的な数字との見方が強いようです。
ゲームジャンルで見ると、GooglePlay、iOS共に、「アクション」、「箱庭(Miniature garden)」、「カジノ」、「RPG」がシェアを占めておりUS型ですね。

 
▼インドゲームアプリ市場のゲームジャンル傾向(GooglePlay)
▼インドゲームアプリ市場のゲームジャンル傾向(iOS)

ただしこれらのジャンルはClash of Clans(Supercell)、Game of War、 (Machine Zone)、Candy Crush(King)を中心とした外資系アプリの影響が非常に強く、外資アプリが全体(GrossingTop50)の90%以上を占めます

一方、数は少ないですがインド発のゲームは全てカジノ(ポーカーなどのトランプ系ゲーム)であり、背景には映画やクリケットと並んでカジノが好きな国民性というのもあるかもしれません。
 
▼インドアプリ市場のパブリッシャー傾向
 
ご参考までに、iOSはnon-game(ゲーム以外のツール等のアプリ)が多いのも特徴です。現在インドでiPhoneを持つのは特殊な層(富裕層等)が多く、ゲームに裂く時間は低く他のアプリを使う傾向にあるのかもしれません。Non-gameのアプリの分類は次の図になります。
 
▼インドでのNon-gameアプリ利用分布

 
ゲーム構造については、ソーシャル性は低い一方、資産性、操作性については他国と比較し平均値です。

▼インド市場のゲーム構造トレンド

 
日本やアメリカのように多彩なジャンルのゲームがリリースされているわけではなく、外資系有力アプリか、自国初のカジノ系と限定されたタイトルしか市場に無くこれらのゲームの構造が反映された結果になっております。
 

――:課金についてはいかがでしょうか?

現状、F2Pのゲームに課金する文化は形成されておりません。中間層の所得が低いことに加え、決済手段もクレジットカード決済が主流(Googleplayカードが近々販売予定)であり、かつクレジットカードの保有者は数が少ないため、課金のハードルが高いのが実情です。

また、インドのエンタテインメントとしてはご存知のように映画が非常に有名で、ボリウッド中心に年間製作本数世界一(1602本、2012年)ですが、入場料が日本では1800円に対し、インドだと安い場合100円以下の価格のため、相対的にゲーム課金額が高く見えてしまいます。

数少ない課金されやすいゲームとしてはカジノ系ゲームが挙げられ、開発会社は好んでカジノ系を開発する傾向にあります。カジノ系ゲーム以外では広告収入モデルが一般的ですね。

 

――:なるほど。今後もこのような傾向が続くのでしょうか?

昨年末に現地の主力ゲーム開発会社数社にインタビューさせていただきましたが、各社とも今までは手堅いカジノ系ゲームを手がけてきたものの、現在インド市場にリリースされているゲームジャンルは非常に限定的で、スマートフォンの普及率、ゲーム市場拡大に併せて今後いろいろなゲームジャンルで戦っていく可能性、必然性を感じておられました。インドの開発会社はインド市場だけでなく、課金が活発なUS、欧州、アジア市場を見て開発していることも背景としてありますね。

一方課題としては、コンシューマーゲームで遊んだ経験や、ビジネスで関わった経験のあるユーザーが極端に少ない事もあり、ゲームデザインができる開発者が非常に少なく、またコンシューマーの開発経験もないため
開発可能なゲームジャンルに制限があります


――:日本、及び日本のゲーム会社のイメージはいかがでしょうか?
 
日本に対し悪いイメージはありませんが、一方でどんな国、というイメージもあまりなくフラットです。ビジネスマンにとっては、日本のテクノロジーや商品の品質等ポジティブなイメージはありますが、一般人にとっては日本ははるか彼方、アジアの端の国のよく知らない国という認識で、未だに侍や忍者がいると思っている方も少なくありません。

一方、
インドのゲーム業界の人にとって、日本のゲーム会社はグローバルでゲーム産業を牽引してきたゲーム先進国のイメージがあり、コンシューマーの開発力や多彩なIP含めて評価は高く、日本のゲーム会社とインドだけでなくグローバルでビジネスをしたいとう会社は多いですね。まさに彼らの課題を保管してくれる良きパートナーという認識です。
 

――:なるほど。日本のゲーム会社への評価は高いのですね。逆に日本企業のインドへの関心はいかがでしょうか?

他の先進国と比べて関心は低いですね。例えばムンバイ中心にUS、中国、シンガポール系のVCは100社ほど存在しておりますが、彼らはインドの成長力に注目しゲーム系スタートアップ含めかなり積極な投資を行なっている一方、日本はまだまだ限定的な展開です。ゲーム会社のインド展開も同様ですね。

従来より日本の企業はノーリスクでなければ先に進まないという体質があり、また特にインドに対しては「良くわからない」「難しい」市場と敬遠する傾向にあります。しかしリスクというものは日本で事業をしようが海外で事業をしようがどこにでも存在します。インドはそう簡単に諦めてしまうにはもったいない規模、ポテンシャルを持つ市場であり、ゲーム市場はほぼホワイトスペースに近い。また、幸いなことに日本のゲーム会社のポジショニング、評価も高いです。

インドは今後まさに変化の真っ只中にあり続ける市場ですが、変化があるということはそれだけチャンスも生まれるということです。今すぐに参入して十分な利益が出る市場ではないかもしれませんが、現地の最適なパートナーを開拓し、インドという市場やターゲット、競合を正しく知りそれら理解することができれば可能性は開けてくると思いますし、その準備を行う時期に差し掛かっていると感じております。

 

――: 本日はありがとうございました。
 
※インタビューに関して意見に関連する部分はすべて私見によるものとなります。
 
 
デロイト トーマツ

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