【セミナー】なぜ彼女たちは“こんなにも魅力的で可愛いのか…?” 開発者が語る『アイドルマスター』におけるイラスト制作の工程とは


クリエイター・エージェンシー事業を行うクリーク・アンド・リバー社<4763>は、デザイナー向けサービスとして「デザイン塾」の第1弾を9月14日(日)に開講した。

当日は、バンダイナムコゲームスの関連会社であり、人気コンテンツの企画・制作を多数行うバンダイナムコスタジオの協力を受け、大人気ゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ!』のデザインチームとコラボレーションして「デザイン塾」を開催。

本稿では、コンテンツの仕掛け人である制作者たちが登壇した、2Dデザイナーに向けた最新の市場概況、制作ノウハウを提供する講座の模様をレポートしよう。


 

■アイドルの“新たな一面”を見せる


今回の講演に登壇したのは、バンダイナムコスタジオの運営A氏とC氏。おふたりとも『アイドルマスター ミリオンライブ!』に登場するカードイラストの制作者として活躍している。はじめにカードイラストの原案を考えるA氏より、同作のイラスト制作フローについて語ってくれた。

そもそも『アイドルマスター ミリオンライブ!』とは、GREEで配信中の人気家庭用ゲームソフト『アイドルマスター』シリーズから生まれたソーシャルゲーム。プレイヤーは、芸能事務所765プロ所属のアイドルグループのプロデューサーとなり、所属アイドルたちをレッスンで育成しつつ、「合同フェス」に参加してファンを増やし、さらには自分の管理するライブ劇場を発展させ、アイドルたちをトップアイドルに導いていく。

大きな特徴としては、ゲーム内に登場するカードイラストが、すべてアニメ「アイドルマスター」の制作会社であるA-1 Picturesが新規描き下ろしているところだ。
 
 

さて、そんなカードイラスト制作のおもな流れは、次の4ステップとなる。

① 原案
② ラフレイアウト
③ 作画 (A-1 Pictures)
④ 完成


登壇したA氏が担当するカードイラストの原案では、まずキャラクター名やレア度、コンセプト、シチュエーションなど、細かい項目をデザイナーに伝える指示書を作成していく。様々な項目があるなかで、なかでも大切なのが「コンセプトである」とA氏は述べた。原案におけるコンセプトとは、言わば「何を魅力にしたいのか」をきちんと説明することにあるようだ。
 

ここで『アイドルマスター』シリーズの人気キャラクター・三浦あずさ(さん)を例に、コンセプト作成について解説してくれた。あずささんを元にしたカードを作成する際、一般的には「浴衣の絵にしようかな」「あの曲を歌っている絵にしようかな」など、絵のイメージを元に考えてしまいがちだと指摘。A氏によると、こうした考え方は自分の描きやすい絵に偏ってしまうとのことだ。

「自己表現する場ではいいが、とくにカードを大量に作成して、なおかつ各々の魅力を差別化するソーシャルゲームにおいては、すぐにネタ切れになってしまう」とA氏は説明した。それでは、どのようにコンセプト(魅力)を考えていけばいいのか。「まずは純粋に“あずささんの魅力ってなに?”というところから考えてみましょう」とA氏は続けた。さて、そこでザッとあずささんの魅力を下記に並べてみた。

① 包容力があって優しい可愛さ
② おっとりしていて、セクシーな可愛さ
③ 天然マイペースで親しみやすい可愛さ などなど


もちろんあずささんの魅力は、これだけではないが、とりあえずここでは例として3点挙げた。このようにキャラクターの魅力を表現する前に、まずは“どういうキャラクターなのか”“どこが魅力のキャラクターなのか”を具体的に要素出しすることが大切のようだ。キャラの魅力を軸に、各種設定を取捨選択しながらまとめていくことが、何よりも原案のコンセプト(魅力)を作り上げていくテクニックという。あくまでも、はじめにキャラクターの魅力を考えるのが大切。
 

また、アイドルの可愛さをしっかりカードに込めることも重要という。A氏いわく『アイドルマスター』のキャラクターは、シリーズを通して「本当に存在しそうな容姿・性格のキャラクター」として制作されているようだ。たしかに他作品の美少女キャラクターが登場するゲームと比べて、インパクト重視ではなく、やや見た目が地味な印象も見受けられる。だからこそ、「カードイラストにそのキャラなりの可愛さを感じられる物語、ネタを込めることで、一見した印象だけではない、奥深い魅力を表現するよう努めている」とA氏は語った。

逆に、『アイドルマスター』のキャラクターの強みとしては、「性格に矛盾がない」ことを挙げた。「ひとつの要素を取り除いても決してアイデンティティが崩壊しない。そのため、どんなシチュエーションにおいてもその娘なりの個性が発揮できる」とA氏は語った。そのため、魅力の見せ方の引き出しが多く、多彩なバリエーションの物語を作成できることで、もっとキャラクターが成長して輝いゆく姿を見せやすい特徴があるとのことだ。

ちなみに、A氏が原案という立場で気を付けている点は、原案からラフレイアウトをデザイナーへ依頼する際に、デザインを考える領域を残していくことである。つまり、必要な設定とその意図、形容詞は書くものの、こと細かいキャラクターの容姿や衣装を原案で指示することはせず、デザイナーが自由に描いて表現できる場を与えることにあるようだ。
 

最後にA氏は、「アイマスのお客様はアイドルのプロデューサー。なのでイラストの綺麗さではなくて、アイドルの新たな一面を知りたい、楽しみたいと思っています。キャラクターの魅力を存分に引き出すことが大切です」というコメントで締めた。

 

■アイドルを1mの近さで見ている感覚

 

続いて運営C氏からは、ラフレイアウトの役割と必要なスキルや意識について解説してくれた。

さきにA氏が語ったカードイラスト制作4ステップのふたつ目にあたるラフレイアウト。なんとC氏は、毎月60枚にも及ぶラフレイアウトを監修・修正を行っているとのこと。制作の流れとしては、バンダイナムコ社内でラフレイアウトを手掛けた後、A-1 Picturesに納品し、同社の制作・作画監督・背景・特効の各スタッフに対して1枚ずつ演出意図を説明・共有する。さらに戻ってきたイラストをバンダイナムコ社内で最終調整して完成という。

毎月60枚を作成するのは、早さはもちろんクオリティを保つのにも中々骨の折れる作業であるが、上記のように『アイドルマスター ミリオンライブ!』におけるカードイラスト制作は、アニメと同様の工程で手掛けているようだ。なかでもC氏は、「作画監督が1枚1枚イラストに修正を入れてくれる。この修正がカードのクオリティを上げてくれる」と話してくれた。

ここからは、ラフレイアウトの役割について、もう少し掘り下げて解説。本作におけるラフレイアウトとは、言わばA-1 Picturesのアニメーターが作画する設計図(コンテ)のようなもの。サービスインから1年以上、1500枚以上のラフレイアウトを監修してきたC氏は、総合的なイラスト制作の上手さについて、「きちんと下記の6つの要素が表現されているかが重要」と述べた。

① 誰が(キャラクター)
② どこで(背景設定)
③ どんな服を来て(衣装デザイン)
④ 何をしているところで(ポーズ)
⑤ どういった感情か(表情)
⑥ 誰目線か(カメラはどこから撮っているか)

 

まずは①の「誰が」とはキャラクターのこと。前述した原案のコンセプトの話にも通じるが、やはりキャラクターを理解しなければ、笑顔ひとつとっても本当に「そのキャラだ!」と思える笑顔は描けないという。どこから、そして何から描いて良いのか手が止まってしまうとのことだ。「初めて本作のイラスト制作に携わる人は、キャラクターを理解することが最初に引っかかる箇所」とC氏。

続いて②の「どこで」と③の「どんな服を着て」。恐らく企画からは荒唐無稽な依頼も飛んでくるかと思うが、じつは背景も衣装も実際のカードでは見切れている部分もデザインすることがあるという。さらに⑥のカメラアングルは、ある状況におかれたアイドルを、誰の視線で、どのくらいの距離で見ている絵なのかを自在に描き分ける必要があるとのこと。
 

あくまでも誰かが撮影している形で無理な構図は避けることも指摘。以上6つの要素を満たしていることが、よりカードイラスト(キャラクター)の魅力を引き出すことができるようだ。

次にC氏は、ラフレイアウトに必要な能力図をグラフ化してくれた。前述しているように、ラフレイアウトにおいては、手練れた線でキャラクターを上手く描いていくよりか、動きや可愛さ(格好よさ/セクシーさ)、背景、画面構成など、たくさんの要素がきちんと満たされているかが大切という。
 

ここでふたつのイラストを比較して説明してくれた。
 

Aは一見して上手い人がサラッと描いたまさに手練れた印象を受ける。一方、Bは描き込みがあるもののAと比較するとやや微妙な印象も。しかし、さきの能力図として比較すると、Aはキャラクターの要素が引き出ていないことを指摘。

対してBは、勢いのある“動き”や“表情”など良い絵になるエッセンスが盛り込まれていると説明した。あくまでも極端な例を極端に評価しているが、ラフレイアウトの大切さはここから理解できることだろう。
 

「最終的には、A-1 Picturesさんの素晴らしい作画や最後の特効入れや修正によって、どんなラフでもある一定のクオリティを満たした絵に仕上げることは可能ですが、ラフレイアウトには良い絵になるための様々なエッセンスが詰まっていないといけない」とC氏は語った。ラフが良いと確実にA-1 Picturesから上がってくるイラストもクオリティが高いとのこと。ここでC氏によるラフレイアウトを描く際に必要な心得を4つ紹介してくれた。

① キャラクター理解
見た目だけではなくて、中身(性格)からキャラクターのことを理解していくこと。そのうえで「このキャラクターってこういうキャラだったんだ」ということを表現する。さらに、その対象キャラクターの今までに無い一面を出していくようだ。「笑顔ひとつとっても、キャラによって全く違う」とC氏が語ったように、キャラクターを理解していないと姿形はそのキャラクターの記号をしていても、「中身が違う!」という絵が生まれてしまうことも指摘した。

② 絶対的に格好いいか可愛いか
言わずもがなだが、絵として文句無くカッコイイ絵は正義! しかし、それを上回るのは、キャラクターが心底「ニコ!」っとした笑顔だったりもする。

③ 「すごい!」「上手い」絵ではなく「良い~!」と言われる絵
絵を上手く見せようとする描いていくというより、「このキャラクターの表情や仕草可愛くない? 楽しくない?」という意識を持つことが大切なようだ。絵の上手さやテクニックを伝えるのではなくて、見る人を楽しくさせるような絵を意識的に描くことに重きを置いているという。

④ それらしい「感じ」を出す
まさにアイドルを1mの近さで見ている感じ、そこでアイドルを見て感じる気持ち、可愛さの本質や実感のある動きなどなど……。テクニックではなくて、本当にその場を想像して、そこにいる気分にさせることが大切のようだ。

講演の最後には、C氏よりラフレイアウトにおいて必要なスキルと心構えを解説してくれた。今回はあくまでも『アイドルマスター ミリオンライブ!』における絵作りの重要性についてであったが、今日講演した背景や衣装、動き、表情、総合的な力があればあるほど、本作に限らず様々なタイプのイラスト作業でも重宝することは確実であると語った。
 
 

また、C氏は過去、ビジュアルアーティストの採用担当として、毎年数百作品ものポートフォリオを見て、そこから最終的に採用に値する数人を絞り込む役割を担っていた。

そんな同氏が毎年見てきたなかで、新卒採用と、派遣会社から送られてくるポートフォリオの違いは、詰め込み量であるとのこと。「自分の全てのスキルを見てもらおうという気持ちの差を感じる。ソーシャルでの採用はすごく狭い範囲でも超~上手ければOK。だから、その得意分野の中での幅や造詣の深さをもっとアピールして欲しい」と言葉を添えた。
 
(取材・文:編集部 原孝則)


■『アイドルマスター ミリオンライブ!』
 
 
 

■関連企業サイト

バンダイナムコスタジオ



(C)窪岡俊之 (C) BANDAI NAMCO Games Inc. (C)BNGI/PROJECT iM@S
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
https://www.bandainamcoent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
設立
1955年6月
代表者
代表取締役社長 宇田川 南欧
決算期
3月
直近業績
売上高2896億5700万円、営業利益442億3600万円、経常利益489億5100万円、最終利益352億5600万円(2023年3月期)
企業データを見る
株式会社クリーク・アンド・リバー社
http://www.cri.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社クリーク・アンド・リバー社
設立
1990年3月
代表者
代表取締役会長CEO 井川 幸広/代表取締役社長COO 黒崎 淳
決算期
2月
直近業績
売上高441億2100万円、営業利益39億5600万円、経常利益40億200万円、最終利益28億9900万円(2023年2月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4763
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バンダイナムコスタジオ

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バンダイナムコスタジオ
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